ANTIQUE JAPANESE RADIO/日本の古いラジオ

日本の真空管の開発の歴史

戦後日本のラジオ・TV球-JIS名/CES規格の球-

A Series : 3極出力管

(1998.4.10)
/HomePageVT/CESa.html

written by Koji HAYASHI, Ibaraki JAPAN


目次

3極出力管の概要

5X-A1

3X-A2(UX-2A3)

6R-A2

6R-A3

6G-A4

6R-A5

6R-A6/9R-A6

8R-A7

6R-A8

6R-A9/8R-A9

6C-A10/50C-A10

8045G

6R-AL1/9R-AL1

6R-AL2/10R-AL2

真空管の開発の歴史にもどる


3極出力管の概要

 日本名の3極出力管は,5極出力管(P)やビーム出力管(B)に比べて品種が少なく,単独管(A)が9品種,複合管(AL)が2品種の合計11品種です。その内訳はST管2品種,MT管6品種,GT管1品種,9T9管(ネオノーバル管)1品種,コンパクトロン1品種です。

 また通番A2は旧日本名と新日本名の2品種が重複して割り当てられています。

(A2管の重複について)

日本名のA2といえば,6R-A2(NEC/新日電)が有名ですが,これは近代CES規格のJIS名管で,一方,旧日本名の球に3X-A2があります。最近では,ラジオ技術誌(1986年?月号)で奥村氏が熊本放送局の真空管規格表(1951年頃)の2A3の項にカッコ付きで(3X-A2)とされているのを紹介しています。よくよく調べてみると,国洋電機の真空管試験器付属の真空管規格表(1958年頃)や大盛社の真空管ポケット・ブック(1954年版)にも記載されていました。JIS/CESの真空管名称の規則では,球の特性が同じ場合にのみ同一型番A2が許されるので,これは明らかに規則違反です。

 日本の真空管名称制度は,戦前の1941年に発足し,戦後はJIS名制度に引き継がれました。この際,旧制度の登録管で,例えば12Z-P1のような日本独自の球は,そのまま継承されたのですが,旧制度では,欧州名EL84/米国名6BQ5と同じ考え方で,米国管にも日本独自の名が与えられていたのです。これが,後に紹介する5X-A1(UX-12A),3X-A2(2A3)で1942年頃に登録されました。

 重複名称付与が起きた原因として,(1)戦後の新制度では混乱を避けるため旧登録管の見直しを行い無用な名称を抹消しその後に新型管が登録された,(2)戦災により,登録の情報が継承されなかったの2通りが考えられます。(1)の見直し・抹消が行われたとしたならば,5X-A1はUX-12Aの単なる別名ですから当然整理の対象だったはずです。ところが,戦後に新型管A1が誕生したというニュースは耳にしませんから,5X-A1の登録は生き残ったものと思われます。このような例は5極管にも見受けられます。6Z-P4(UZ-42)など。したがって,登録資料の一部が新制度に継承されなかったと考えるのが,最も矛盾の無い原因のように思われます。(現にこうしてJIS名の球を苦労して集めているのですから)。

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5X-A1(UX-12A)

 小型ラジオ用直熱3極出力管。東京電気マツダ支社。1942〜1943年頃に名称登録。米国系12A/国内名UX-12Aの単なる別名。

(原型・構造・特性)

5.0V,0.25A,ST38-?,4D,

180V,-15V,8.5mA,rp4.15k,gm1.8mA/V,μ7.5,RL9.65k,0.27W,Ebmax180V,Pb1.8W

(A1)195V,2k,(10.6Vrms),8.5mA,RL10k,0.27W

米国生まれのラジオ用小型直熱3極出力管112A(S管,ナス管)は,東京電気(後の東芝,商標はマツダ)がUX-112Aとして1928年に国産化。またダルマ型(ST管)のUX-12Aは東京電気が4年後の1934年頃に国産化しました。5X-A1は「日本標準名称制度」におけるUX-12Aの別名で1942年〜1943年頃に登録したものです。

(時代背景とその後)

米国系112Aは1928年(昭和3年)頃に国産化され,直流式の高価なラジオでラッパを鳴らすための小型出力管として用いられましたが,ST化とともに廉価になり名称も12Aに変りました。その後,国内では1935年頃に交流式の並4(UY-24B,UX-26B,UX-12A,KX-12B)が国内標準形ラジオとして確立しました。並4は,ペントード出力管UY-247B(1932年)の出現とUY-47B(1933年頃)の普及により,シェアを奪われましたが,しかし面白いことに完全に滅ぼされることもなく,シェアを並3や高1と分けながらも,戦後1948年にGHQにより再生式ラジオの販売が禁止されるまで生き長らえました。この間,並4の検波管はUZ-57やUZ-57Aに,増幅管はUY-56,整流管はKX-12Fに変りましたが,出力管UX-12Aだけは代替管が出現せず日本の標準球として広く使われました。このため,販売禁止後も保守用に長く需要があり,戦後すぐには60社以上が,また1960年代前半頃にも国内大手各社が製造していました。ちなみに国内最大メーカの東芝が保守品種に指定したのは1960年頃です。なお,国内では1955年4月から日本名称UX-が廃止され,以後米国と同じ名称12Aになりました。5X-A1の名称は1942〜1943年頃に付けられたものの,この名称を付した球は実質的には製造されなかったと思われます。今日,国産のUX-12Aは入手難ですが,米国産は比較的容易に入手できます。

UX-12AK

 ちなみに,NECは戦後の1948年頃,製造が間に合わないUX-12Aの代替を目的とした傍熱管としてUX-12AKを開発し,一時期製造しました。特性は完全互換ですが,代替以外に特に優れた性能も無いので,他社のUX-12Aの製造が軌道に載るとともに廃止になり,JIS名に登録されることもありませんでした。UX-12Aの代替ですのでベースは4pinのUX型が使われ,不足するピンはカソードをヒータに接続することで解消しています。ところが,直熱管のフィラメントは中点にカソード・バイアス用抵抗を接続することが一般的であり,AC点火の場合にはカソードをどちらのヒータ・ピンに接続してもハムの混入は避けられません。このため,カソードを真空管内部でヒータ中点に接続し,解決を図っています。これは実用新案になっており,傍熱管による完全な代替が可能になりました。同じ例が,UY-47Bに対する3Y-P1,UY-24Bに対するUY-57Sに見られます。

 なお,UX-12Aの代表特性はDC点火,片側接地の例ですので,フィラメントあるいはヒータの中点を接地したAC点火の場合は,プレート電圧ならびにグリッド電圧を5Vの半分-2.5V減じる必要があり,その代表特性は,Eb177.5V,Eg-17.5Vとなります。

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(旧)3X-A2(UX-2A3)

 オーデイオ用直熱型3極出力管。東京電気マツダ支社。1942〜1943年頃に名称登録。米国系2A3/国内名称UX-2A3の単なる別名。

(原型・構造・特性)

2.5V,2.5A,ST45-?,4D,250V,-45V,60mA,rp0.8k,gm5.25mA/V,μ4.2,RL2.5k,3.5W

pp(self),300V,-62V,40mA,RL5k,10W

pp(fix),300V,-62V,40mA,RL3k,15W

2A3はオーディオ用直熱型3極出力管として米国に生まれ,東京電気がUX-2A3として1934〜1935年頃に国産化しました。3X-A2は1942年〜1943年頃に名称を登録したものです。

(時代背景とその後)

東京電気は1930年に米国の2つのオーディオ用直熱型3極出力管UX-250とUX-245を国産化しました。UX-250は業務用として,またUX-245は民生用として使用されたそうです。このうち,民生用のUX-245だけは国内でも1934年にST化されUX-45となりました。さて,本稿主役のUX-2A3はUX-45の2倍の出力を持つ球として約2年後にデヴューしたにもかかわらず,電源,出力トランス,スピーカ等の事情から,国内では戦前はUX-45シングルが一世を風靡し,UX-2A3は戦後まで出番が廻って来なかったと言われています。しかし,UX-2A3は数少ない3極出力管であり,用途はオーディオ用に限らずレギュレータ管としても使われたため,UX-45は戦時中に廃品種として整理されたのに対して,UX-2A3はペントード管が普及した戦後も生き残りました。戦時中は海軍の要請で傍熱型のUX?-6A3Bも作られたとのことです。

特にオーディオ管としては戦後の混乱期を過ぎた1940年代後半から1950年代前半にかけて活躍したようです。しかし,この時期にはオーディオ用管としては廉価なペントードUZ-42の普及の時期と重なり,電畜もUZ-42ppに押され気味で必ずしも爆発的に普及した訳ではなく供給量も多かったとはいえません。1950年代後半に始ったHi-Fiブームやステレオ時代には新型欧州管EL84/6BQ5やEL34/6CA7が爆発的な人気を誇っていたのに対して,直熱3極管は一部のマニアや保守用の需要しか見込めなかった訳です。しかし,この球は細々とした需要ではありましたが一時の人気管種のように忘れ去られることもなく根強い人気を保ったお陰で,国内では1960年代後半まで生産されました。なお,国内では1955年4月から日本名称UX-が廃止され,以後米国と同じ名称2A3になりました。3X-A2の名称は1942〜1943年頃に与えられたものの,この名称の球は実質的には製造されなかったと思われます。2A3は世界各国でファミリーが生産されたこと,今日でも中国などで生産されていることから入手は容易です。国産の後期2A3や前期のUX-2A3も稀に姿を表します。

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(新)6R-A2

 オーディオ出力用(OTL専用)傍熱型3極管。NEC(新日電)1958年。JIS/CESの3極出力管の実質的第1号。低電圧大電流型。

(原型・構造・特性)

6.3V,0.76A,mt21-3,10-8,(IC,K,G,H,H,G,IC,IC,P),新(P,K,G,H,H,G,P,IC,P)

150V,-31V,100mA,0.44k,8.5mA/V,μ3.3,RL0.75k,2.7W,200V/15W

 6R-A2はNEC(新日電)が開発したOTL専用オーディオ出力3極管。原型はオランダ・フィリップスの5極管EL84/6BQ5で,4極構造のMT9pin型の3極管。低価格,低電圧大電流型。電極外観は原型に瓜二つで,詳細に見ると,第3グリッドが無く第2グリッドがプレートに内部接続されているのが分ります。3極管の特性はNECが独自に設定したようです。

(歴史的背景)

世界的には1952年頃に低負荷型のSEPPアンプが発明され,1950年代後半には国内でも流行し,400〜800Ω前後の高インピーダンス・スピーカも市販されました。真空管としては,SEPP回路では2本の球を直列にするため+B電圧が2倍必要で,また多極管ではスクリーン回路が面倒なため,低電圧大電流型の3極管が適しており,初期の頃は従来のオーディオ用3極管や多極管の3極接続が使われ,さらに外国では内部抵抗の低い業務用のレギュレータ管などが流用されました。国内では,高価なレギュレータ管に代り,もっぱらテレビ用の低電圧大電流型管が流用され,MT管では垂直偏向用3極管12B4Aや6DE7など,GT管では水平偏向用ビーム管25E5や12G-B3などが有名でした。しかし,経済的なMT管では十分なプレート損失と大電流特性が確保できず,また水平偏向出力管はMT管よりはましでしたが,3極接続ではスクリーン耐圧の制限から本来の性能が十分発揮できず,大柄なGT管,取り扱いの面倒なトップ・プレートという欠点だけが目立ち,結局,いずれも出力やコストの点で不満が残りました。

 ところが,本来,SEPP出力管は低電圧大電流特性だけ要求され,高圧動作は不要なので小型MT管でも良く,また従来の小型MT管EL84/6BQ5がプレート・スクリーン合計損失20W近くに及んでいるので,プレート損失15W程度の専用出力管は十分実現できる状況にありました。SEPP回路はオランダ・フィリップスが開発したこともあり,欧州ではEL86/6CW5などのビーム5極管が使用され,また米国では通常のオーディオ管やシングル・エンド型のTV用大型偏向管がもっぱら使用されました。日本では経済事情からもっぱら廉価版が望まれており,専用の6R-A2が誕生しました。

(参考EL84/6BQ5の3接)

6.3V,0.76A,mt21-3,-,250V,(270),36mA,-,-,μ19,RL3.5k,1.95W,300V/12W+2W

原型のEL84/6BQ5は高効率の球で知られ,多極管接続AB1プッシュプルでは出力17Wが得られますが,3極接続AB1プッシュプルではμが19と高いため最大プレート電圧300Vでは高々5Wしか得られません。

[改造の要点]

 NECは電極構造として内部4極構造の3極管を採用した理由として,プレートの内面精度が容易に出るため高gm管が低価格で作れる,電子流が均一になりプレート損失が増大できる,などと説明しています。当時,5極管やビーム管として,MT7pinでは6AR5,6AQ5,30A5など,MT9pinでは6BK5,6CL6などがありましたが,EL84/6BQ5を原型に選んだ理由は,ヒータ電力(エミッション)とプレート損失が手頃であったこと,人気品種のため電極部品が多量に生産されており共通に使用すればコストを下げられる,という点です。

 改造の最大の特徴は,ゼロ・バイアス時のプレート電流を大きくし,(プレート電圧が50V時に120mA,100V時に300mA),低電圧領域での電圧利用率を向上させた点です。この特性は当時の水平偏向ビーム出力管25E5/12G-B3系やラジオ出力管50C5の3極管接続を上回り,1960年代に現れたキャビトラップ・プレートの6GY5系と同程度です。その代り,最大プレート電圧は原型の300Vから200Vに下げられました。また,もう1つの特徴として,ヒータ・カソード間耐圧が,SEPP動作を考慮し引き上げられている点です。出力管としての性能は,最大プレート電圧200V,低負荷(870Ω)時のSEPP動作で,EL84/6BQ5の5極管接続PP動作に近い15Wの出力が得られるようになりました。

 NECは6R-A2の設計方針について次のように述べています。「SEPP回路における出力最大(Po=Pmax)条件は負荷インピーダンスが内部抵抗に等しい時(RL=rp)なので,プレート電流Ibが多いところでrp=300〜350Ωとなるように設計してある。ただし,この条件では,MT管の外形で決まる最大プレート損失15Wを越えてしまうから,出力が余り減少せずに負荷が高く取る動作条件として,負荷インピーダンスが内部抵抗の2倍(RL=2rp,Po=0.86Pmax, Pbin=1.33Ib)を設定した。」

 3極定数について原型のEL84/6BQ5と比較すると,それぞれ次の通りです。

EL84/6BQ5; μ19 =1.58kX12mA/V(250V)

6R-A2; μ3.3=0.38kX8.7mA/V(100V)

μは1/5.76倍ですから,パービアンス一定(gm一定)として単純に比例計算すると

EL84/6BQ5; μ3.3=0.275kX12mA/V(250V)。

両動作条件を揃えるため,プレート電圧250V時から100V時に変更した場合を考えますと,

(1)理想3極管の計算例

gmの低下は,パービアンスGが一定と仮定し

gm〜G2/3Ib1/3, Ib=GEst1/3

の式を用いると,両者の実効プレート電圧式の比較からgmの減少は

(0.4)1/3=0.737

と求まり,

gm=8.8mA/V

となります。これは,EL84/6BQ5のμを3.3とした改造球のgmと6R-A2のgmの公表値とが良く一致していることを意味します。したがって,EL84/6BQ5からの改造は単にμの変更に留っていることが分ります。

(2)初速度電流によるバイアスを考慮した詳細な計算

gmの低下は,

gm'/gm=(Ib'/Ib)0.6(Eb'/Eb)-0.4

で表せ,

gm'/gm=(0.045/0.175)0.6(100/250)-0.4=0.639

より,

gm=7.67mA/V。

この場合,gmが15%程減少していますので,改造はμの変更の他,gmに関わる改造が為されています。

 μだけの変更は,スクリーン・グリッドG2の対プレート距離を1/5.76に縮める(対カソード距離を増加)か,コントロール・グリッドG1のピッチを1/2.4倍または線径を1/5.76倍に縮めることに相当します。実際には,対カソード距離の増加や線径の最小化は現実的な数値でないことから,コントロール・グリッドG1のピッチを1/2.4倍に粗くしたものと考えられます。

 また,同時にgmが減少しているとすれば,ピッチ以外にも何等かのパラメータがいじられ,パービアンスやゼロ・バイアス電流も若干下がっていることになります。gm=0.85とすると,gm=(G)1/3(Ib0)2/3より,Ib0=0.95,G=0.90と計算されます。パービアンスG=SC/X2より,G1の位置はX=1.05倍。μ=px/d2は一定なので,G2の位置xが相対的に後に1.05倍後退した形になります。したがって,G1のピッチを1/2.4倍に粗くし,しかも1.05倍緩く巻き付け,その分G2もゆるく巻くとできあがりです。ピッチ以外に線径も太くしたかも知れません。

(構造観察)

6R-A2の電極外観を原型のEL84/6BQ5と比較すると,プレート,カソード・スリーブ,ヒータ,上部および下部のマイカ板は同じです。6R-A2で省略されたものは,G3の支柱2本とワイヤー,G3金属板フレームです。このフレームはG3ワイヤーの代用に幅2mm程度の金属板を用いたもので,上部と下部マイカ板のプレート内面に直接取り付けられます。これはEL84/6BQ5の特徴で,同族の7189や7189Aなどには見られません。6R-A2はEL84/6BQ5と部品を共通化し低価格にしているため,マイカ板にはG3支柱貫通孔2個,金属フレームの爪の貫通孔2個,フレームと支柱の連結板の貫通孔2個の合計6個の穴が放置されています。一方,6R-A2ではG1放熱用のU字型フィンだけは,放熱を改善するために独自の道を歩みました。原型のEL84/6BQ5ではG1フィンは初期のモデルには多く見られましたが後にコスト低減のため省略されたのに対して,6R-A2では一貫して付けられており,後期のモデルではむしろ強化されました。

(モデルの変遷)

手元のサンプルには3種類のモデルがあります。

[(モデル1)]初期型(1958〜1961年)。角形ゲッタ,小型黒化フィンでガラス管印字は薄い。NECマークは菱形。ベース・ピンはGがピン3とピン6の2本出ている。Pはピン9のみ。ピン1,7,8はIC。ヒータはストレート形。

[(モデル2)]中期型(1961年9月〜)。丸形ゲッタ,大型黒化フィン(縦寸法は従来の2倍),銀色印字となる。NECマークは菱形。1961年9月に設計変更。ピン1,ピン7はICだったが正式にPとした。Pは合計3つになり放熱面が改良されている。

[(モデル3)]後期(推定1968年〜)。小型灰色フィン(再び小さくなる),黄色印字に変わった。マークは太文字のNECになる。

[(モデル4)]白文字(推定1971年〜)。このサンプルは持っていない。

(その後)

6R-A2はNECだけが生産しました。一般品,通信用,グリーン・シリーズがあります。1961年の設計変更時には名称は変更されませんでした。価格は1958年9月には6BQ5が@750,ペア@1,650(この頃はペア管は特別料金が必要だった)に対して,6R-A2は@680,ペア@1,495とやや低価格でした。1969年1月の広告にもペア@1,360(この頃はペア価格は単管の2倍)とあり,息長く市販されていました。

6R-A2はならびにGT管という不経済の2大要素を取り除いた高効率のMT3極出力管として誕生し一時期人気を博しましたが,オーディオ管としては感度が悪く大電流電源を要する等の欠点があるため,後に効率の良いOTL専用5極MT管が出現すると人気は下火になりました。また小型レギュレータ管としても一部に使われましたが,ほとんど同時期により強力な専用管6R-A3が発表されたことにより需要は伸びませんでした。ちなみに,真空管OTLアンプや高インピーダンス・スピーカ自体も1960年代前半にトランジスタのOTLアンプが普及するとともに衰退しました。

 大口需要が無かったため生産量が少なく大量のストックも存在しませんが,用途が限られている事も手伝って一部のアマチュアに保存されており,今日でも僅かに市場に出ることがあります。今日この球を活用するとすれば,高インピーダンス・スピーカは入手困難ですから,出力トランスを用いた高負荷抵抗動作(5k,3.5k,1.75kΩ)に限られます。今日のアンプでは,感度の悪さ(ドライブのし難さ)や大電流電源の確保は全く問題になりませんが,高負荷抵抗時に最大プレート電圧が200Vではプレート能率が悪く出力が稼げません。プレート電圧の最大定格が200Vと低く抑えられていますが,その積算根拠はSEPP回路にあり,高負荷抵抗時にはもっと上げられるのではないか?という疑問が残ります。代替管としては,形状が異なるのを許せば多くの水平偏向管の3接が使えます。ゼロ・バイアス特性の点では,特に欧州の6GB5/EL500系,米国では6GY5系が似ています。

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6R-A3

電圧調整用直列抵抗管(傍熱型3極出力管)。NEC(日電)1958年頃。ならびにOTLオーディオ出力用3極管。東芝1963年頃。業務用(Hi-S)ならびに民生用(一般,Hi-Fi)。

(原型・構造・特性)

(6R-A3)6.3V,1.0A,mT21-3,

100V,-20V,100mA,0.24k,12.5mA/V,μ3,

250V/15W,Ib125mA,Ehk+/-300Vdc

(東芝)130V,-30V,88mA,0.3k,10.4mA/V,μ3.1

(A1)100V,-20V,100mA,RL250Ω,2.65W

130V,-30V,(0-21.4Vrms),88-128mA,RL600Ω,3.9W,1.1%

(AB1pp)130V,-31V,(0-22Vrms),160-260mA,RL1k,8.7W,2.0%

その他,OTLの規格あり

(参考6AS7G)

6.3V,2.5A,ST51-135mm,135V,(250Ω),125mA,(0.285k),7mA/V,μ2,

(計算では104V,-31V,125mA)

275V/14W,Ib125mA,Ehk+/-330V

NEC(日電)が開発したオリジナル管で,電圧調整用直列抵抗管。内部でG2をPと接続した4極構造の3極出力管。3極管としての特性は,米国系6AS7G(GT型は6080)を原型として,改良を加えたものとなっています。

 電圧調整用直列抵抗管と言えば,米国RCAの6AS7G系(GT型は6080)が有名ですが,これはPb14W(6080は13W)クラスの出力用3極ユニットを2つ封入した大型ST管です。6R-A3/6R-A5はこの片ユニット程度の能力を持つ球として小容量電源装置用に新たに開発したものです。最大定格が6AS7の片ユニットとほぼ同等にもかかわらず,4極構造を採用したため小型(MT9pin)かつ高gmの制御特性の良い球が実現できました。ただし,MT管用T21バルブの制約からバルブ温度の最大定格だけは低くなっています。

 低電圧大電流型の大型管6AS7-GをMT管に焼き直す設計の要点は(1)プレートのコンパクト化,(2)ヒータ電力の削減,(3)制御特性の向上の3つです。まず,プレート構造ですが,6AS7G系に使用されているコの字形に折曲げた2組の大型板状黒化プレートはT21ガラス管に納りませんので,プレート長(30mm)を同じに保ちながら中央に放熱用の板フィンを付けたアルミ・クラッド鉄製の平たい箱型灰色プレートに変更し,同じ最大プレート損失ながらコンパクトにしています。最大プレート損失は,6AS7G系はバルブ内の他ユニットによる加熱の影響があるためにG1の放熱フィンに工夫が為されているものの,6AS7Gで14W,6080で13Wに過ぎず,6R-A3はこの分楽になり15Wを得ています。また,6R-A3は4極構造を採用したためアノード・プレートG2がありますが,この放熱には大型の黒化放熱板がそれぞれの支柱頂部に取り付けてあります。その代り,6AS7-Gに見られるG1の放熱フィンは,6R-A3では加熱が僅かなためありません。

 次に,ヒータ電力の削減ですが,6R-A2は6AS7-Gと同じ形状,寸法のカソード・スリーブを用いているにもかかわらず,ヒータ電流を1.25Aから1Aへ20%削減しています。真空管のパービアンスはカソード有効面積と比例関係にあり,電力の削減は一般にパービアンスの低下を意味しますが,6R-A3の場合は,4極構造を使用してカソードとG2間の距離を精密に縮めて改善を図り,結果的に,パービアンスは1.54倍に改善されています。2つの動作例,

(6R-A3)μ3=0.24k X 12.5mA/V,Eb100V,Eg-20V

(6AS7G)μ2=0.285kX 7mA/V,Ebb135V,Rk250Ω(Eb104.75V,Eg-31.25V)

では,パービアンスGは,Ib=G(Ec+Eb/μ)3/2より,それぞれ2.05,1.33と求まります。また,ゼロ・バイアス電流はEb100Vにおいて6AS7-Gが420mA,6R-A3が310mAですが,この場合,

(6R-A3)μ3.528=0.215k X 16.4mA/V,Eb100V,Eg0V

(6AS7G)μ2.169=0.159k X 13.6mA/V,Eb100V,Eg0V

と計算されます。6R-A3は,制御特性を改善するために増幅率μを1.5倍に上げると同時に,パービアンスを向上させて,結果的に,6AS7-Gには及ばないものの,大きなゼロ・バイアス電流と低い内部抵抗を確保していることが分ります。

(その後)

NEC(日電)は,6R-A3を登録後,増幅率が下側にバラつくという製造上の問題に突き当たり,歩留り対策として増幅率のやや低い球を6R-A5として新たに登録し,同一生産でどちらかに分類する方法を取りました(6R-A5参照)。この6R-A3は業務用レギュレータ管として1970年頃まで製造を続けました。

 一方,レギュレータ管といえばOTLオーディオ管としての利用も考えられます。6R-A3の原型である米国6AS7-Gは開発元のRCAがオーディオ管としての動作例を発表しており,またOTL出力管としても定評があります。開発元のNEC(日電)は,マニュアルに「またはOutputTransless用出力管」とありますが動作例は示さず,また積極的な販売もしませんでした。業務用管のNEC(日電)と民生用管のNEC(新日電,子会社)の業務分担体制が災いして,うまく販売できなかったものと思われます。

 東芝は,遅れて1963年頃に6R-A3の製造に参入し,業務用の他,オーディオ用OTL出力管としての規格も発表し,他の真空管と同様に通測用,Hi-Fi,一般の3種類に分けて製造販売しました。東芝の業務用と民生用受信管の製造販売体制は,形態こそ異なるものの事実上同一部門が担当していたと思われ,業務用管が民生用にも販売できた訳です。また6R-A5は発表しておらず製造上の歩留りの問題は解決したものと考えられます。東芝は近代オーディオ用傍熱型3極管として開発・製造したのは,1958年開発の6G-A4だけで,あとはこの6R-A3とか6AS7Gや6BX7など,他目的管の利用に止め積極的な開発はしませんでした。なお,6R-A3は国内管球メーカにOTL出力管として採用され,販売されていた実績があります。

(6R-A3のモデル)

NEC(日電)の初期のモデルは,角型ゲッタが特徴で天井部にはゲッタの飛散を防ぐ2重マイカを用いています。プレート板材は熱による機械歪を回避するためのリブが5本あり,プレート側面には排気のための小さな丸穴が片面2個開いています。また上下マイカ板付近には絶縁対策と排気を兼ねた開口部があります。後期モデルは,1961年頃に指向性の良いリング・ゲッタに変更され,2重マイカは廃止されました。また,プレートのガス抜き用穴は片面4個に変更されています。一方,東芝にも初期と後期のモデルがありますが,ゲッタは参入が遅かったのでリング・ゲッタのみです。また,プレート・リブは4本,ガス抜き穴は片面5個もモデルに共通しています。モデルの違いはフィンとヒータにあり,初期モデルでは,G2放熱フィンが無くヒータもストレートです。後期モデルには,G2放熱フィンが付き,オーディオと一般用にはコイル巻きヒータが使われました。

(近年)

代替管としては,直接的な品種はありませんが,6R-A3は最近でも東芝Hi-S管が細々と流通しており,またアマチュアのストックも相当豊富にあると思われます。形状が異なるのを許せば,やはり原型の6AS7-G系は豊富にあり,感度以外は同等です。

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6G-A4

 オーディオ用傍熱型3極出力管。東芝1958年。

(原型・構造・特性)

(東芝テクニカル・データ,東芝60年)

6.3V,0.75A,GT29-2C,10-30,

250V,-18.5V,40mA,1.4k,7mA/V,μ10,RL5k,2.2W,350V/13W

280V,-21.5V,47mA,-,-,-,RL5k,3.2W

(参考6BX7)

6.3V,1.5A,GT29-2C,235V,-16.4V,42mA,1.3k,7.6mA/V,μ10,500V*/10W(6Wx2)

原型は米国の垂直偏向出力用双3極管6BX7GTで,片ユニットを独立させ単管としたもの。6BX7GTの国産化(東芝1958年頃)とほぼ同時に6G-A4の開発が行われました。同社は6BX7-GTのオーディオ用出力管としての適性に着目し,1960年の規格表には垂直偏向動作の他,オーディオ動作例も掲載しています。同社によれば,6G-A4は直熱型3極出力管2A3の後継管を狙って開発したもので,ほぼ同じゼロ・バイアス特性を有しているので同等の出力が得られる割に,傍熱型でハムの心配が無く,しかも感度が高く使いやすくなっている,としています。本管と同時に専用整流管5G-K24を発表しました。東芝はHi-Fi用出力管として,それまでにMT5極管6R-P15と整流管5R-K16,GTビーム管6G-B8と整流管5G-K22を発表しており,これに3極出力管と整流管を加えたことでシリーズを完成させ,Hi-Fiブームに対する業界リーダ役としての面目を保ちました。

 6G-A4の電極外観は,東芝製6BX7-GTの片ユニット全く同じ作りで,偏平楕円断面の大型プレート・フィン付きカーボン・スート(着炭)型黒化プレートと頂部の十字型黒化グリッド放熱板が特徴です。6BX7-GTではT29バルブに2ユニットが入るサイズで電極の大きさを設計したため,単管とした6G-A4ではプレート・フィンとガラス管壁との間に余分なスペースを生じております。設計しなおせばプレート損失を更に向上できたはずですが,電極材料を共通化するとコスト・ダウンとなるためか実施しませんでした。それでも,他ユニットからの加熱(ヒータ電力6.3Vx0.75A=4.725W)が無くなった分,プレート損失が6BX7-GTの最大10W(パラレル動作時には6W)から13WにUPしました。また余ったベース・ピンもグリッド放熱に活用(引き出しをピン1と6の2本で行う)し,出力時の放熱改善も図られています。プレート特性や3定数は,東芝の規格表において6G-A4と6BX7-GTに僅かな差が見られ,特に出力管に重要なゼロ・バイアス時のプレート電流は6G-A4がやや大きく発表されていますが,本質的な違いは無いと言われています。

(特性の計算)

6G-A4と6BX7-GTの発表されている代表動作例が異なりますが,計算により条件を合せて両者を比較してみます。

(6G-A4) 250V,-18.5V,40mA,1.4k,7mA/V,μ10

μ9.8=7mA/Vx1.4k,at250V,-18.5V,40mA

Ib=40mA=G(-18.5+250/9.8)3/2 よりG=2.16

(6BX7-GT) 235V,-16.4V,42mA,1.3k,7.6mA/V,μ10

μ9.88=7.6mA/Vx1.3k, at235V,-16.4V,42mA

Ib=42mA=G(-16.4+235/9.88)3/2 よりG=2.09

250V換算:Ib250V=2.09x(-18.5V+250V/9.88)3/2=37.1mA

gm=1.5(2.09)2/3(37.1)1/3=1.5x1.63x3.33=8.14mA/V

μ9.88=8.14mA/Vx1.21k at250V,-18.5V,37.1mA

こうして見ると,6G-A4は6BX7-GTと比べてgmは14%低く,rpは12%高いのですが,出力に関係するパービアンスGは3%ほど高くなっており,μがほんの僅か(1%)小さく,またプレート電流Ibは8%増加しています。すなわち,感度を少し犠牲にして出力の増加を図っていることが判ります。実際,出力を決めるゼロ・バイアス電流は,特性図から読んだ値は,下の表のように,Eb50Vで25%UP,Eb100Vで32%UP,Eb150Vで50%UPとなっています。

(6G-A4) グラフの読み 計算Ib0=G(Eb/μ)3/2, 計算μc=Eb/(Ib0/G)2/3,Ib0

G=2.16,μ=9.8 Ibはグラフ,G=2.16

Eb50V ;Ib=40mA, Ib0=24.9mA μc=7.16,

Eb100V;Ib=108mA, Ib0=70.4, μc=7.39,

Eb150V;Ib=210mA, Ib0=129.3, μc=7.12,

(6BX7-GT) グラフの読み 計算Ib0=G(Eb/μ)3/2, 計算μc=Eb/(Ib0/G)2/3

G=2.09,μ=9.88 Ibはグラフ,G=2.09

Eb50V ;Ib=32mA, Ib0=23.8mA, μc=8.12

Eb100V;Ib=82 mA, Ib0=67.3 μc=8.68,

Eb150V;Ib=145mA, Ib0=123.6 μc=8.91,

 パービアンスGは機械構造とエミッションから定まる係数で通常は一定と仮定できますが,増幅率μは動作条件により変動します。μを一定と仮定しゼロ・バイアス電流Ib0(表中央)を計算してみると,グラフの半分程にしかなりません。そこで,グラフのゼロ・バイアス電流Ibと先のパービアンスGからμ(表右列)を計算してみると,6G-A4のμは6BX7-GTと比較して88%,85%,80%という具合に10%〜20%小さくなっていることが判ります。

(参考:ルーツを巡る議論)

6G-A4の特性の差を巡り,6BX7-GTの片ユニットと同じ(例えば奥村氏),あるいは6BX7-GTを原型として改良を加えたもの(例えば浅野氏),との2つの意見が流布していますが,私は最近では後説に傾いています。

 電極構造が同じ双3極管と単管では電気的特性は同じはずですが,出力管では放熱環境により動作状態が左右されるため,両者は静特性が微妙に違うことが想像できます。実際,MT管(T21)と9T9(T28)あるいはコンパクトロンとノーバなど外囲器が変っただけでも,パラメータに微妙な差異があることは知られています。

 さらに議論を混乱させた原因の1は,東芝が行った宣伝です。6G-A4は低歪Hi-Fi出力用3極管と書かれています。このお陰で人々は6BX7-GTを低歪,大出力に改良したものと信じました。しかし,東芝は6BX7-GTの歪を改善したとは一度も言っておらず,この低歪は3極管天性のものといえそうです。すなわち,6G-A4の開発とは,6BX7-GTを単管に改造し,出力管としてのデータを整備しただけのことと言えそうです。

 また,6BX7-GTの公表特性が問題を複雑化する要因となっています。同一品種の球でもメーカの違いや製造時期により,製造工程の違いや設計変更毎に特性の差が生じます。50年代末には国内ではオリジナルから掛け離れた改良が多く行われました。例えば,6AX4GTや6BQ6GTBに例が見られます。にもかかわらずデータ・ブックの情報はオリジナルを順守するのが業界の習わしで更新されることはほとんどありません。さて,6BX7-GTも東芝製と米国GE製などには違いがあると言われていますが,このケースでは幸運なことに東芝60年マニュアルと,ポーランド発行のUniversal Tube Manualの米国産には食い違いがあり,どうやら東芝は自社のデータを表しているようです。一方,6G-A4の特性図は,2つが知られています。初期の59年に発表されたもの(テクニカル・データと技術資料)と,60年マニュアルでは,ゼロ・バイアス曲線は同じですが,-5V曲線に一部食い違いがあり,後者はやや電流値が小さくなっています。とは,いうものの全体的には同じ傾向のようです。したがって,東芝通しの比較には意味がありそうです。先に比較の結果を見たように,ゼロ・バイアス付近に若干の違いがありそうです。

 この違いが,機械的構造から来ていないのも明らかです。ゼロ・バイアス特性は放熱にも多少関係するかもしれませんが,電流の大きい領域のゼロ・バイアス特性は球に損傷を与えないようにパルス的に測定したものと思われます。すなわち,熱の影響は受けにくいと考えられます。すると,残るはエミッションの違い以外ありません。したがって,エージング過程に違いがあると推定されます。実際に手元の東芝製6BX7-GTのgmを6G-A4と同じ条件で測定してみますと,その分布は6G-A4の方がやや上に分布していることが判ります。

(モデル)

確認されているモデルは7種類。

[(最初期)]外囲器のガラスの頭は丸型,角ゲッタ2個,天井にゲッタ・フラッシュから電極を守る透明のマイカ板が在りました。ベース・ピン1だけは金属板で配線されています。ガラス表面の表示は,正面にToshibaのロゴ,その下に米国の古い形式に習った8角形の枠内に管名が6GとA4に上下に分割され表示され,ガラス管裏側に四角で囲ったHi-Fi文字がスタンプされています。ベースは黒色のやや背の高い「短形中間シェル・オクタル外部バリアー付き」で,一切印字が有りません。

[(モデル2)]リング・ゲッタ1個になります。Hi-Fiスタンプは正面の管名表示の下に,またToshibaのロゴがベース正面に移ります。それを中心にElectron TubeとTokyo Shibaura Electricの文字が左右に配置されてます。金色。

[(モデル3)]ガラスの形状と中身は同じですが,ガラス面上のHi-FiスタンプがベースのToshibaのロゴの下に移ります。ここまでが1965〜1966年頃。

[(モデル4)]ガラス頭,やや偏平になります。

[(モデル5)]ベースの厚みが薄くなり,またガラス管上の管名表示の枠が横長となり「6G-A4」とハイフン付きになります。

[(モデル6)]ベース上の文字が全てガラス面に移り(白文字),その下に横長の枠内にハイフンの無い管名「6GA4」が(うすい銀文字で)表示されます。

[(モデル7)]モデル6と同じですがHi-Fiの表示がなく,代りにロット番号「3J」などが表示されています。

(その後)

開発当時,全ての新型管開発の方向は感度向上にあり,付録として歪低減がありました。6G-A4は2A3の後継管としてデビューしましたが,後の時代の2A3との比較評価では,感度は良いが直線性はさほど良くなく,シングルA1動作では歪特性が劣り,またAB1級PPでも出力がやや小さい,などと評されました。NFBの使用が前提の時代だったので,感度のために裸特性の直線性が犠牲になりました。開発の経緯を見ると分るように,東芝は市場規模の小さいオーディオ用3極管の開発には消極的で,6G-A4は6BX7GTのマイナー・チェンジ,これに続く第2弾は,先に述べたレギュレータ管6R-A3のHi-Fiへの流用で終わり,オリジナル管は開発しませんでした。出力規模がやや小さいため,2A3の代替管としての役割を完全に担うことはできず,また数年後にNECから6G-A4の改良版6R-A8が販売されたため人気の盛り上がりはいまいちで,メーカー製アンプに大量に採用されることもありませんでした。それでも,アマチュア間には根強い人気があり1960年代末期まで現役で市販されていました。今日,完全な代替管は有りませんが,同族の6BX7-GTはやや定格を落とせば同様に使えます。また単管ではやや定格が下回りますが6BX7-GTの原型米国6AH4-GTがあり,またその発展形で6G-A4と同規模の米国6CK4などが知られています。

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6R-A5

電圧調整用直列抵抗管(傍熱型3極出力管)。NEC(日電)1958年頃。詳細は6R-A3参照

(原型・構造・特性)

(6R-A5)

6.3V,1.0A,mT21-3,

100V,-20V,80mA,0.29k,11.5mA/V,μ3.3,

250V/15W,Ib125mA,Ehk+/-300Vdc

6R-A5は6R-A3と3定数が若干異なる双子管であり,同一ラインで製造後電流のやや少ないものを選別したのものです。NEC(日電)は6R-A3を開発しJIS/CESに登録後,実際の製造工程で規格を下回る製品が多いことに苦慮して,低gm管だけを選別して別名で販売する方法を取り歩留りを改善することにしたと思われます。ところが,すでに東芝の6G-A4が登録されていたため,6R-A3とは連番にならず6R-A5となったのです。

(その後)

製造技術が向上するとともに6R-A5は姿を消しました。したがって,6R-A5は角型ゲッタ,天井マイカなどの特徴を持つ初期のNEC製6R-A3と同形式のものだけが製造されたようです。東芝は製造しませんでした。今日でも,アマチュアには僅かですがストックがあるようです。

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6R-A6/9R-A6

 白黒TV垂直偏向出力用3極管。東芝1960年。垂直偏向用3極管の第1弾。トランスレス600mA管(9.5V)とトランス付き6.3V(900mA)がある。

(原型・構造・特性)

6.3V,0.9A/9.5V,0.6A,mT21-4,10-64,(K,G,NC,H,H,IC,G,NC,P)

(T60) 250V,-12V,26mA,1.75k,8.5mA/V,μ15,

設計中心/550V/10W,Ehk+100/-200Vp(+100Vdc),Ik40mA,ik140mA,+1500V/-250V,2.2M

(CES,T62)250V,-12V,21mA,2.2k,7.2mA/V,μ16,

設計最大600V/10W,Ik50mA,ik175mA,+2.2kV

参考(6S4A/RCA)

6.3V,0.6A,mT21-3,9AC,

250V,-8V,24mA,3.7k,4.5mA/V,μ16.5,550V/8.5W,Ik30mA

(6S4A/一木)

250V,-8V,26mA,3.6k,4.5mA/V,μ16,500V/7.0W,Ik30mA,ik105mA,

2.2kV/(-250V),2.2M,+250V/dc100V,-250V

原型は米国の垂直偏向出力用単3極管6S4Aで,ヒータ電力とパービアンスを50%UPしたものです。110度偏向用の中μ3極出力管として開発しました。始めに600mA管9R-A6が後に6.3V管6R-A6が作られました。東芝は,「水平偏向出力の一部を整流して+B電圧をかさあげするブースト電圧を使用すれば,12G-B7と組合わせブラウン管プレート電圧16kVまでの110度偏向トランスレスTVに対応可能」と言っています。

6R-A6の改造の要点は,110度偏向に必要な数Wの出力を得るため,中増幅率管6S4Aをそのまま大電流化することにあり,増幅率μ16を維持しながらパービアンスを50%UPしたことにより,6S4Aを1.5本並列動作させた教科書的な特性,すなわちgmが1.5倍,内部抵抗が1/1.5倍の球ができあがりました。

パービアンスの向上は原型のカソード幅の拡大とプレートの厚みをやや薄くする方向で進められたため,カソード幅,G1支柱幅ならびにプレート横幅もそれに合せて若干拡大された他,プレート厚みが約1mm程薄くなっています。プレート縦寸法,プレート・フィンの大きさ,ガラス容器は同じなので,電極外観は全体的に原型に良く似ています。ただし,プレート材料は,RCA製の6S4Aは黒化プレートなのに対して,東芝の6R-A6/9R-A6はアルミ・クラッド鉄製の灰プレートです。放熱対策の最大の違いは,6S4A系にはG1放熱フィンが無いのに対して,6R-A6/9R-A6ではG1支柱上部に比較的大きい板状放熱フィンが付けられ,プレート損失は17%UP(8.5Wから10W)している点です。また,マイカ板上のPK間の高圧時絶縁対策として,6S4Aでは端部がプレートに直接掛からない長方形のマイカ板を用いているのに対して,6R-A6/9R-A6ではマグネシア塗布の円形マイカに切込みを入れているのが異なります。

(モデル)

手元の東芝の全てのサンプルは,G1フィン付き,ヒータはスパイラル。ベース・ピン規格のpin3,pin8はNC,pin6はICですが,これらのピンは全て電極支持棒に使用されています。製造年月により異なるのはガラス管表面の管名とロゴの印字だけです。

(1)管名はハイフン付き「6R-A6」金文字,ロゴは赤茶字。

(2)管名は同じ,ロゴは白字になる。

(3)管名ハイフンなし「6RA6」金文字,ロゴに星が付く

(4)管名同じだが,うすい銀文字。ロゴ同じ。

(その後)

東芝の他NECも生産した模様。9R-A6は国産TVには9R-AL1に次いで普及したと思われる。1960年代末に米国にも輸出された。1980年後半に9R-A6ppオーディオ・アンプの記事(ラ技,奥村氏)が紹介されて以来,TV保守用の在庫品が市場に流れ頻繁に見かけるようになった。今日では逆輸入版も入手できる。オーディオ用にはμが16と高いため高圧をかけないと出力はとれない。代替管は6S4Aあたり。

(時代背景)

垂直偏向出力管には,初期の頃,7AU7,12BH7,6SN7-GTなどの中増幅率の3極管や出力をもっと欲しい場合には6AR5,6AQ5などの5極管あるいはその3極接続が使われました。その後,ブラウン管の偏向角度が70度から90度,110度に発展するとともに,米国では専用MT3極管として,中増幅率(15前後)の6S4(RCA1956年頃)と低増幅率(6.5前後)の球12B4が開発され,以後2系統のまま発展しました。国内でもまず,中μ管の系譜では6S4A(NEC1958年)やこれを複合管とした6CS7(東芝1956年)が国産化されました。一方低+B電圧で動作する低μ管の系譜では12B4A(東芝1956年),またやや遅れて複合管10DE7(東芝1958年)が国産化され,110度偏向用の大型TV用には,GT管6EM7(NEC?年),9T9管の6EW7(東芝1961年),さらにノーバル管やコンパクトロン管へと変っていきました。一方,小型TV用には,6SN7-GTをMT化しプレート損失を小さくした6CG7(東芝1957年)が一部で使われ,多極管では6AQ5の後,5/6CZ5(東芝1958年),国産6R-B11(東芝1959年)を経て6/8EM5(NEC1959年)へと移行しました。複合管には欧州の6BM8系,6GV8系,国産8RLP1などが使われました。

 この中で,中μ3極管の系統は,出力を得るのに高いプレート電圧を要するという欠点があるため,大型ブラウン管が主流の米国では6S4A,6CS7以降,後継管は開発されませんでした。ところが,中μ管は感度の点で優れており,小型ブラウン管が主流の日本市場では経済的メリットがあるため,日本独自に発展することになったのです。中μの垂直偏向出力3極管は,6R-A6以降さらに3品種が日本で開発されました。

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8R-A7

 白黒TV垂直偏向出力用MT3極管。開発者不明。1960〜61年。垂直偏向用3極管の第2弾。トランスレス600mAシリーズのみ。低圧大電流型。

(原型・構造・特性)

8.0V,0.6A,mT21-,10-28,

150V,-17.5V,42mA,{0.909k},6.6mA/V,μ6.0,275V/10W

(10DE7)9.7V,0.6A,

150V,-17.5V,35mA,0.925k,6.5mA/V,μ6.0,275V/7W

(6EW7)6.3V,0.9A,

150V,-17.5V,45mA,0.8k, 7.5mA/V,μ6.0,330V/10W

8R-A7は110度偏向TVの垂直偏向出力用に開発した低μ3極管です。原型は米国の3極複合管6/10DE7の出力部(低μ管12B4Aの系譜,μ6)で,これを独立させ単独管にした日本独自の球です。ユニットの独立により放熱が改善されプレート損失を3W大きくできましたが,他の最大定格はほぼ同じです。このクラスの低μ管は,後に米国系TVの主流になり数々の品種が開発され,国内でも最大定格を引き上げたネオノーバル(9T9)6EW7やGT管6EM7,コンパクトロン管15FM7,ノーバル管10GF7Aなどが次々と国産化され使用されました。高μ管は感度の点で有利なことから国内では需要が多く日本独自の球が開発されましたが,大型ブラウン管に向いた低μ管の需要はもっぱら輸出用に限られたため,米国との互換性を考えるとこれ以上日本独自に設計する必要がなくなり,8R-A7が最初で最後の球となりました。

(その後)

8R-A7の開発メーカは特定できていません。少なくとも9R-A6と同時期に開発されJIS/CES登録されたことは確かです。しかし,国内は中μ管が主流になり,海外市場にはJIS名管はマイナーであったため需要が無く,結局市販しなかったものと思われます。

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6R-A8

オーディオ出力用4極構造の3極MT管。NEC(新日本電気)。1961年。

(原型・構造・特性)

(旧62-63)6.3V,0.76A,mT21-4(22.2-68),10-8/C-68(IC,K,G,H,H,G,IC,IC,P)

250V,-19V,55mA,0.9k,10.5mA/V,μ9.7,RL2.5k,3.5W,350V/15W

(新64)6.3V,1.0A,mT21-4,10-8,

250V,-19V,55mA,0.9k,10.5mA/V,μ9.7,RL2.5k,3.5W,350V/15W

6R-A8は内部4極構造のオーディオ出力用傍熱型3極管で,原型は同社が2年前(1959)に開発したビーム出力管6R-B10です。6R-B10と外観が非常に良く似ており,その原型となった米国球6BK5ともガラス管がやや短い点を除けば良く似ています。3極管としての特性の原型は東芝の6G-A4で,規格を大幅に向上させて市場から6G-A4の締め出しを図ったものと思われます。シングルで2A3程度,またプッシュ・プルで6BQ5程度の出力が得られ,また,傍熱型のためヒータ・ハムの心配が無い,高感度なため特別なドライブ回路を要しない,MT管であるためコンパクトなアンプができる,など手軽で廉価な民生用3極管として開発されました。

原型の6R-B10は,プレート損失を最大定格を9ピンMT管で許容される最大限(15W)まで,また印加電圧を350Vにまで引き上げ,プッシュプル動作時の高出力化を実現した球です。同時代のEL84/6BQ5は高増幅率管(μ19.5)のため,3極接続では最大プレート電圧300Vの自己バイアス・プッシュプル動作で5W程度の出力しか得られませんが,6R-B10は高増幅率(μ14)でも350Vまで印加できたので固定バイアスで出力12Wが得られました。もし同一の高耐圧・高損失の条件下で専用の3極管を設計すればさらに大出力化が望めましょう。これが原型になった理由と思われます。なお,電極構造を4極管の3極接続とした理由は,6R-A2や6R-A3/6R-A5と同様で,高gm3極管では純3極管とするとカソードに対するプレート内面の寸法精度を出しにくいのに対し多極構造では工作の容易なスクリーン・グリッドがプレートの役割を果たすため寸法精度が出しやすい,さらに電子流がむら無くプレート全面に分散するので高損失が可能になる,などと説明しています。

 大出力化の鍵は,6R-B10の高パービアンスを維持したまま3極接続時の増幅率(μ14)をさらに小さくしてゼロバイアス電流を大きくすることにあり,増幅率は東芝の対抗馬6G-A4と同じ10に設定されました。このため,6G-A4と比較してパービアンスが約2倍高く,ゼロ・バイアス時のプレート電流は30%以上UPし,芋づる式に関連するパラメータもgmが1.5倍,rpが1/1.5倍になり,出力が50%以上UPしました。

 原型6R-B10から6R-A8の初期モデル(ヒータ0.76A版)への改造では,不要なビーム翼を取り除いた以外,ヒータ電力を6G-A4並に削減し6R-B10と同等のパービアンスを得るために第2グリッドをカソードに近づけ,さらに増幅率を下げるために第1グリッドも同時に改造したものと思われます。第1と第2グリッドの目合せ構造は受け継がれており,スクリーン流入電流を制限しスクリーン損失を低減するのに役立っています。初期モデルは6G-A4と比較すると出力の点では勝っているが高gmのためにプレート曲線はさらに湾曲し歪率の点では決して良くなかったと思われます。

 6R-A8後期モデル(1A版)は,無理なパービアンス向上を諦め,ヒータ電力をもとに戻したものです。6R-B10とパラメータを比較すると,パービアンスGは一定でgmもほぼ一定のまま増幅率μだけを10/14に減少させたことになるから,カソードと第1グリッドには無関係で,もっぱら第2グリッドの構造変更,すなわち,第2グリッドをややきつく巻いて,第1と第2グリッド間距離を30%減少させたもの思われます。結果的にヒータと第1グリッドは6R-B10と同じで,第2グリッドだけを新たに設計変更したものとなり,生産の面からも部品の共通化ができ経済的です。この後期モデルは6G-A4と比較すると,変更点はパービアンスだけですので,歪特性に関係した各グリッド電圧に対するプレート曲線の並びかたなどは,電流スケールを除けば6G-A4と大変良く似ています。

 6R-A8の構造上の特徴としてプレート内面のサブ・プレート・フィンが挙げられます。これは,新世代ビーム管の特徴の1つで6R-B10から受け継がれたものです。このフィンはプレートを出て第2グリッドに向かう2次電子を幾何学的に遮蔽して低減する役目を担っており,多極管ではIbとIsgの分配比を大きくできるため肩特性の改善に役立ちますが,4極構造の3極管でもスクリーン損失の軽減に役立ちます。その他,6R-A8の構造上の特徴として,グリッドの放熱は,G1支柱頂部に比較的大きなU字型黒化フィン,G2支柱頂部にも小型平板灰フィンを付けています。

(その後)

初期モデル発表後,1962年5月には出荷を中止しヒータに関する改造(0.76Aから1Aへの増強)が行われました。これが後期モデルです。NECではプレート特性は改造前とほとんど同じでマニュアル掲載の改造前の特性曲線がそのまま使えるとアナウンスしています。後期モデルは名称変更「6R-A8A」も検討されましたが,結局元の名称のまま,63年5月〜64年になって出荷されました。このような例として6R-A2のベース規格変更の例があります。

 6R-A8は後にラックスや山水によりアンプに採用され国内に普及し,また自作派にも廉価な球として大いに活用されました。1969年1月のNECの販売価格はペアで@1,800とあり,6BQ5(@1,200)より高めですが,7189A(@2,400)や6L6GC(@2,400)よりは安かったのです。1970年代前半には製造が中止されましたが,NEC以外では生産されず流通量が少なかったことに加えて,自作用の購入とメーカ製アンプの保守用の需要が重なり,管球オーディオ・ブームが到来した1980年代前半には6G-A4よりも早く市場から全く姿を消してしまいました。

(代替管)

このクラスの球は代替品が無いと云われています。本文に紹介した通り,特性面で親類に当る球として,東芝の6G-A4や一般の6BX7-GTのパラレル接続などがあります。しかし,形状はGT管と異なり,また特性の規模は2/3あるいは1/2と小さいのが欠点です。一方,6R-A8の直接の原型6R-B10の3接は増幅度がやや高いので(μ14)出力が落ちる他,入手が困難です。そのまた原型6BK5は増幅率が大幅に異なる(μ20)ため,代替管としては全く役に立ちません。形状や出力の点だけを見ると6R-A3/6R-A5が挙げられ,代替を試みた例もありますが,電力感度が異なる(μ3)ため大幅な設計変更が必要です。さらにストックは先細りで少し高価です。

 最近,欧州系のEL86/6CW5が代替管として注目されています。こちらの方がやや感度が高いようですが増幅度(μ10)とゼロバイアス特性が類似しており,同程度の出力が得られると言われています。膨大なストックがあるのも強みです。唯一の欠点は耐圧の不安です。メーカ発表の最大定格は5結時にEbmax200V(普通の5極管)あるいは250V(松下のビーム管)で,3結動作例はEb170Vの自己バイアスのみしかありません。アマチュアはEb300Vでも動くと言っていますが。

 EL86/6CW5はOLT用にHL94/30A5の放熱を改善しPbを大きくした球で,パービアンスが高く設計されているため,Ikmaxに制限され耐圧がEb200V/250Vと低くなっていると考えられます。MT管の耐圧は一般に電極間ギャップではなく電極損失で規定されています。一般の受信管では,Ebが300V付近に高い運動エネルギを持つ電子が生じるため,それ以上の耐圧を有する球では電極材料に工夫が施されていますが,逆に300V以下で動作させる場合には,材料に関してはPbを越えない限り何の対策もいりません。したがって,Ikmaxを越えず,かつEb300Vを越えなければ,PbならびにPsgの制限内では十分使用できるものと思われます。特に,OTLでなければ苛酷な負荷条件が緩和されるし,3接であれば,Esgmaxの制限もEbmaxに準じることになります。

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6R-A9/8R-A9

 白黒TV垂直偏向出力用3極MT管。東芝1962年。垂直偏向用3極管の第5弾。6.3Vおよびトランスレス600mAと450mAに対応。

(原型・構造・特性)

6.3V,0.6A,mT21-3,10-48(K,G,NC,H,H,IC,G,IC,P),

250V,-10.5V,22mA,2.5k,6.7mA/V,μ16.5,

設計最大600V/10W,Ik50mA,ik175mA,2.2kV,2.2M,+/-250V,

(参考)

(6R-AL1)6.3V,0.86A,mT21-4,10-25,250V,-10.5V,24mA,2.34k,7.5mA/V,μ17.5,

設計最大500V/8W,Ik40mA,ik140mA,2kV,2.2M,-275V

(CES) 250V,-10.5V,22mA,2.46k,6.7mA/V,μ16.5

(6R-A6) 6.3V,0.9A, mT21-3,10-64,

(T60) 250V,-12V,26mA,1.75k,8.5mA/V,μ15

(CES,T62) 250V,-12V,21mA,2.2k, 7.2mA/V,μ16

設計中心,550V/10W,Ik40mA,ik140mA,1.5kV

設計最大,600V/10W,Ik50mA,ik175mA,2.2kV

原型は1961年に日立が開発した6/9R-AL1の出力ユニット(米国6CS7の50%UP管)で,これを単管としたものと考えられます。ただし,ヒータ電力がやや小さくなっており(6.3V,0.72A(推定)に対し0.6A),1品種で6.3Vと600mA系に対応できる特徴があります。特性は6/9R-AL1にほぼ同じ(詳細は6/9R-AL1参照)ですが,資料により若干の違いも見られます。ヒータ電力の違いは現在のところ,説明できていません。

最大定格は単管にしたことにより改善され,最大プレート損失は8Wから10Wに,またプレート最大電圧も500Vから600VにUPされました。

 先に開発した6/9R-A6(米国6S4Aの50%UP管)と比較すると,増幅率μは15〜16に対し16.5とほぼ同じで,また最大定格も同じですが,ヒータ電力が2/3に削減されているため,カソードがやや小型化し,gmは7.2〜8.5mA/Vに対し6.7mA/Vで7〜21%減,内部抵抗は2.2k〜1.75kに対し2.5kで30%〜12%増です。まとめると,感度はやや落ちますが省電力型となっています。

(モデル)

手持ちのサンプルは東芝だけです。これによると,(6.3V系の)ヒータはストレートです。ゲッタ・リングは6/9R-A6系より一周り大型で排気が改善されてます。また放熱対策としては,G1支柱は6R-AL1系に比べて太く,G1フィンは6R-A6系の灰フィンに対し放熱の良い黒化フィンが使われ,プレートのかしめも6R-A6系4箇所から8箇所に改善されています。防振対策として,頂部のマイカ板にはカソード振動を抑えるバネマイカが使われてます。なお,ベース・ピン配置は番号(10-48)が6R-A6系(10-64)と異なりますが,違いは3本の遊休ピン(3,6,8)の定義だけです(NCは6R-A6系はpin6,6R-A9系はpin3で,他はIC)。これらの遊休ピンは,手元のサンプルではpin2(NC)とpin(IC)にマイカ板に鳩目で繋がった電極支持棒が接続され,pin8(IC)は無接続となっています。

(その後)

東芝の他,NECや松下(1968年)も製造に参加しました。開発が9R-AL1と同時期で性能も競合するため国内ではそれほど普及しませんでした。しかし,1960年代後半に米国に輸出されたこともあり,今日,逆輸入品が手に入るし,また国内市場にもときどき姿を現します。

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6/50C-A10

オーディオ用3極出力管。NEC(新日電)1967年。6.3V,トランスレス用50V管がある。JIS/CESではオーディオ用初のコンパクトロン管。

(原型・構造・特性)

6.3V,1.5A/50V,0.175A,T38-90,-,

250V,-22V,80mA,0.57k,14mA/V,μ8,RL1.5k,6W,450V/30W

(参6GY5)6.3V,1.5A,130V,130V,-20V,40mA,1.3mA,14k,7.7mA/V,μ5,770*/17.5,220/3.5

(参6HB5)6.3V,1.5A,130V,130V,-20V,50mA,1.75mA,11k,9.1mA/V,μ4.7,770*/18,220/3.5

プッシュ・プルで30W出力が得られるオーディオ専用3極出力管として開発。原型は米国の水平偏向出力管6GY5(トップ・プレート型,後継管として6JZ6,6KA6が知られている),6HB5(シングル・エンド型)あたり。6GY5系の3極管接続はプッシュ・プルで同様に30W程度の出力が得られるが,もともと高パービアンスの水平偏向出力管として設計されたため,ゼロ・バイアス付近の直線性は余り良くない。これを改善しオーディオ専用としたのが6/50C-A10である。外観はシングル・エンド型水平偏向管そのもので,6HT6に似ているとされるように,電極構造はビーム・プレートを持つ完全な5極ビーム管で,内部で3極接続してある。これまでのJIS/CES登録球では,6R-A2,6R-A3,6R-A5,6R-A8の4種が4極構造管として知られ,いずれもNEC(新日電)あるいはNEC(日電)が開発したものであるが,時代とともに工夫が懲らされており,最後の6R-A8はG1,G2の目合せによるスクリーン損失の軽減,内部プレート・フィンを用いた肩特性の向上(3極ではパービアンスの向上)がなされている。6/50C-A10では,プレートに6GY5系と同様のキャビトラップ・プレートを採用したため放熱有効面積が大きく,オーディオ動作時の最大プレート損失は水平偏向動作時18Wに対して30Wが可能になっている。このため,外囲器のガラス管を6GY5系よりも大きい(T38-92mm)に変更している。G1,G2フィンは,当初6GY5系と同じ小さなものが付けられていたに過ぎないが,発表のすぐ後に改造され,大きめのものが付けられた。ヒータ電力は6.3Vでは6GY5と同じ(6.3Vx1.5A=9.45W)だが,ヒータ効率の良い50V系は同電力にすると加熱気味になるため(50Vx0.175A=8.75W)とやや下げられている。

(その後)

ズングリ・ムックリとした小型のコンパクトロン管であるため,外観の魅力にはやや乏しいが,オーディオ用真空管としては使いやすく優秀であり,またラックスのアンプに採用されたこともあり,国内の多くの管球アンプ・ファンに親しまれた。しかし,開発年代が遅かったため現役時代に一世を風靡することはできなかった。近代管の特徴は使いやすさと低価格の点にあり,10〜20Wでは6R-A8(Pair@1,800)が,また30W程度では6/50C-A10(当初68年2月Pair@3,080,69年1月Pair@2,800)がその代表選手であり,今日でもラックスのアンプの保守用やアマチュアの新規製作用に人気があったが,6C-A10は早くから,6R-A8は1980年代前半に,また50C-A10は後半になって市場から姿を消した。しかし,その後人気が衰えず,また需要が見込まれたこともあって,中国においてコンパチ管が1980年代の終わり頃生産され,今日では入手は容易である。中国製は数箇所で作られており,作りの良いものは高いし,良くないものは比較的低価格で手に入る。ビーム構造は同じだが,キャビトラップ・プレートは採用されていないようである。

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8045G(6G-A11!)

オーディオ出力用5極ビーム構造の3極GT管。アンプ・メーカLUXとNEC(新日電)の共同開発1974年。

(原型・構造・特性)

6.3V,2.5A,GT,200V,-30V,120mA,0.4k,11mA/V,μ4.5,RL-,-,550V/45W

 国内で調達の難しい米国WE300Bクラスの球に代る近代管として,NEC(新日電)とLUXが共同開発した日本独自の球。シングルで10W,プッシュ・プルで60Wを越える大出力3極管。電極構造は,6/50C-A10と同様,完全な5極ビーム構造を有する内部接続3極管であり,原型は最終期の米国系水平偏向出力管と考えられる。特に,高電力損失が維持できるようにプレート電極材料に4〜5重被覆材を用いたのが特徴。ヒータ電力(6.3V,2.5A系)が同じ米国水平偏向出力管には,初期の頃には6CB5A(880V/26W,8.8mA/V,μ3.8),6DQ5(900V/24W,10.5mA/V,μ3.3)があり,中期には6JE6(900V/30W,10.5mA/V,μ3.3)が知られている。これらは後期に発展し,6KD6(6.3V,2.85A,900V/33W,14mA/V,μ4.0),6LQ6(990/30W,9.6mA/V,μ3),36MC6(=36V,0.45A,990V/33W,9.6mA/V,-),さらに最終期の1970年代初頭には40Wクラスのものが開発されている。8045Gはこれらを原型にオーディオ用に直線性を改善し,また外囲器にマニア好みのGTベースを用いて,大出力管を完成させた訳である。

 NECが製造しLUXが販売した。当時,国内真空管メーカは真空管製造から撤退しJIS/CES登録は有名無実と化していたこと,またLUXは製品の海外輸出(主として米国)を年頭に置いていたことなどから,米国EIA名のような名称が付けられた。JIS/CES名であれば6G-A11となっていたはずだが,8045Gという名前がEIA名かどうかは定かでない。

(その後)

開発が余りにも遅かったこと,LUXは自社で消費する以外の一般需要に対してLUXの代理店を通じての販売だけに終始したことなどから,生産量は僅かで価格も高くほとんど普及せずに終わった。今日でも一般にストックされているものが僅かに入手できるが高価である。また,米国ではLUX製品の保守用にユーゴスラビアで8045Gのコンパチ管を生産させたそうである。日本でもこのコンパチ管が本家の半額程度で流通している。

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6/9R-AL1

 白黒TV垂直偏向(発振・出力)用の非対称双3極複合MT管。日立1961年。トランス付き6.3Vとトランスレス600mAに対応。12G-B3と組合わせて14kVまでの高圧パルスに対応。

(原型・構造・特性)

6.3V,0.86A/9.0V,0.6A,mT21-4,10-25(2P,2G,2G,H,H,1P,1G,1K,2K)

(CES/日立)(A)250V,-10.5V,22mA,2.46k,6.7mA/V,μ16.5;100V,0V,50mA

設計最大 ;500V/8W,40mA/140mA,2.2M,+2kV,Eg-275V,

(東芝) (A)250V,-10.5V,24mA,2.34k,7.5mA/V,μ17.5;

100V,0V,52mA/250V,-17.5V,1mA/400V,-28V,1mA

;500V/8W,40mA/140mA,2.2M,+2kV,Eg-275V,

(L)250V,-11V,5.5mA,8.75k,2mA/V,μ17.5,

;330V/1.5W,22mA/77mA

参考(6CS7)6.3V,0.6A,

(A)250V,-10.5V,19mA,4.5mA/V,3.45k,μ15.5,250V,-22V,50μA,3.0pF,0.5pF,2.6pF

;500V/6.5W,30mA/105mA,2.2M,+2.2kV,Eg-250V,Ek+/-200V

(L)250V,-8.5V,10.5mA,2.2mA/V,7.7k,μ17,250V,-24V,10μA,1.8pF,0.5pF,2.6pF

;500V/1.25W,20mA/70mA,2.2M,Eg-400V

(10DE7)9.7V,0.6A,150V,-17.5V,35mA,0.925k,6.5mA/V,μ6.0,275V/7W

9R-AL1は14〜17インチ程度の110度偏向TVの垂直偏向発振・出力用に日立が開発した中増幅率3極複合管です。原型は米国6DE7および6CS7で,電圧増幅・発振部のユニットは6/10DE7に同じ,出力部は6/10DE7の低増幅率出力ユニットを6CS7の中増幅率出力ユニットの特性にしてパービアンスを50%UPしたものとなっています。大型ブラウン管が主流の米国では,110度偏向用垂直出力管は低増幅率3極管が主流になり10DE7(600mA系)や6DE7(6.3V系)が開発されましたが,国内では10DE7は東芝が1958年にまた6DE7は1961年に国産化していました。一方,中増幅率管はブースト電圧を利用して高電圧動作させないと出力が得られないため米国では嫌われましたが,小型ブラウン管が主流の日本ではむしろ感度の良さが買われて人気があり,従来品種の110度偏向用が望まれていたのです。

 出力部の電極構造ですが,プレート厚み(PK間)は6/10DE7よりもやや薄く6CS7(μ15.5)と同じ寸法になっています。プレート縦横寸法は6CS7(8mmX20mm,フィンは6mmX20mm2枚)がよりも大きく6/10DE7(12mmX25mm,フィンは7mmX25mm2枚)と同じです。最大プレート損失は6/10DE7系(7W)に対し8Wです。ヒータ電流は6CS7(電圧部は12AU7片ユニット相当なので,出力部は6.3V,0.45A)から(6.3V,0.71A,電圧部は0.15A程度)と約1.5倍で,パービアンスが50%UPしています。このため,ゼロ・バイアス電流が1.5倍になった他,gmが1.5倍,rpが1/1.5倍程度に改善されました。この特性は,先に開発された中μ系の単管6/9R-A6と比較すると,μはほぼ同じですがgmがやや低く,また最大定格も概ね20%低くなっています。また,出力部のユニットは同時期に東芝により単独管化され,最大定格を概ね20%UPした6/9R-A9(μ15)が発表されました。

(モデル)

東芝,NEC(新日電),日立,双葉のサンプルがあります。東芝は出力部プレートのかしめが4点で,6R-A9(8点)と比べるとラフな作りである。NEC(新日電)は8点となっている。G1フィンの無いモデル(NEC)もあります。

(その後)

日立の他,この球はNEC(1961),東芝(1961),双葉など各社で一斉に生産され,特に9V管は国産TVには最も多く使われました。松下だけは1968年保守市場を狙って他社の球を作り始め9R-AL1も生産しました。今日では多量のストックが市場に姿を現すことはありませんが,この球はTV以外に用途がないため,ときどき店先に埋もれているのを見かけます。オーディオに流用するには,他の中μ管と同様に高圧をかけないと出力はとれません。

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6/10R-AL2

白黒TV垂直偏向用の非対称双3極複合9T9管。開発者東芝1961年。垂直偏向用3極管の第4弾。垂直発振用の電圧増幅3極管と偏向出力用電力増幅3極管の2ユニットから成る。トランス付き6.3Vとトランスレス600mAに対応。

(原型・構造・特性)

6.3V,0.9A/9.7V,0.6A,9T29-?,10-25

(A)250V,-12V,21mA,2.22k,7.2mA/V,μ16,600V/10W,Ik50mA

(L)250V,-11V,5.5mA,8.75k,2mA/V,μ17.5,330V/1.5W

東芝では米国の低μ型9T9管6EW7の国産化と同時に開発した。電圧増幅部は6/10EW7や6/9R-AL1などと同じユニットで,出力部は前年(1960年)に発表された単管6/9R-A6(μ16)と同等である(初期に発表されたパラメータは全く同じ)。9R-AL1は6R-A9のユニットを複合管化しているため最大プレート損失などに制限があったのに比較して,6/10R-AL2は外囲器に9T9(T29バルブ)を採用しているので,6R-A6の性能がそのまま生かせるという特徴がある。ちなみに試作番号はM3385。東芝では同時期には水平偏向管12G-B3のマグノーバル化が図られ12B-B14(M3383)が誕生し,垂直偏向管に関しては9T9の採用が検討され,「9R-AL1でプレート損失8Wができているが,発振部を別にすれば10Wの単一管ができている以上,この性能での複合管の要望が出るのは当然のこと」として開発が進められた。

(その後)

東芝で開発生産されたが,高μ管の時代は9R-AL1で終わり,以後低μ管の6EW7系がTV製造メーカーに採用され,活路は開けなかった。あちこちで紹介されているが市販されずに終わったようである。今日入手はまず不可能?。オーディオ用にはやはりμが16とやや高いため高圧をかけないと出力はとれないが,少なくとも6/9R-AL1より高圧がかけられる点では有利である。

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