ANTIQUE JAPANESE RADIO/日本の古いラジオ

Restoration of TRIO JR-60 All Bands Receiver/トリオJR-60全波受信機のレストレーション

(1998.3.31)+, (2002.11.23)
HomePageHam/JR60.html

written by Koji HAYASHI, Ibaraki JAPAN

Restored the JR-60/完成したJR60

真空管全盛時代のHam用受信機のレストレーションを紹介しましょう。

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Contents/目次

Overview of JR-60/JR60の概要

Get and Check/入手と現状

Restoration Plan/修復の方針

Disassemble -Remove the CR Parts and Cables/CR類とケーブルの撤去

Check the Parts/部品チェック

Restoration of the sub-chassis/サブ・シャーシ・ユニットの修復

Restoration of Main Chassis/本体シャーシの修復

Calibration/調整

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Overview of JR-60/JR60の概要

 JR60は,1960年代前半にトリオ(現ケンウッド)からキットで販売された通信型のオールバンド・オールモード受信機です。このモデルは時期的には9R42Jと一世を風靡した9R59の間に誕生し,これら普及型の上位機種にあたります。設計がやや古いので9R59(C)と比べるとキャビネットが芋臭いのが欠点です。

 基本的な回路構成は普及型と同じ高周波1段,中間周波2段のシングル・スーパで,放送周波数帯から短波帯30MHzまでをカバーしています。上位機種たる所以は,50MHz帯用のクリスタル・コンバータを内蔵していることでしょう。そのために受信モードもCW,AM,SSBの他,FMにも対応しています。しかし,所詮は中間周波455kHzのシングル・スーパですから,感度やイメージ比を稼ぐ意味で短波帯の上側周波数では外づけのクリスタル・コンバータが必要です。同社からはJR60と同じデザインのプリコン(プリセレクタ+コンバータ)SM-5(シグナマックス)が販売されていました。また,近接波の選択度はIFTだけでは無理で,SSBなどは高価なメカニカルフィルタや多段型のクリスタルフィルタが必要でしたが,時代はまだAM/CWですから,廉価なQマルチプライヤーで済ましていました。もっとも,9R59にもQマルチプライヤーがありましたが,BFO兼用でしたのでCW受信時にはQマルチプライヤーは働きませんが,JR60は両者が独立しており同時に働かせることができます。送信機としては同じデザインのTX-26(2m/6m)も販売されていました。

 JR60の価格は,球無し,コンバータ用クリスタル付き,オールキットで,現金正価29,900円,正価31,500円でした。スピーカは外づけで,一般には木製の箱を用意するのですが,同社では9R59用にデザインしたSP-5(1,500円)を販売していました。これは金属製のケースに楕円型スピーカがはいったもので,コンパクトで良いのですが音は非常に悪かったようです。今回同じ大きさで作ってみましたが,やはり音が悪い。

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Get and Check/入手と現状

 1990年2月にCQ誌の交換欄を通じてTX88A/9R59の完全動作品を求め,奈良県大和郡山市のM氏から9R59の代わりとして,TX88Aと供に入手。JR60には取り扱い説明書兼キット組立説明書(実体配線図付き)が添付されていた。

 入手した機械は内部の部品の製造年月から考えて1963年製であるらしい。主要部品は原型そのままに付いているが,回路は改造が施されている。特に球の入手難からヒータ回路の大半がトランスレス化されている。また+Bはシリコン整流に改造されている。この改造はケーブルの製造年月から考え,1985年頃行われた模様。以下,現状について述べる。

(1)Out-look/外観

アルミ製パネルは,長年の使用により,つまみを操作し指が擦れる部分は緑色の塗装や文字が禿げていた。また鉄製ボンネットは,バックパネルの一部は赤錆が出ていた。しかし,BCLに現用していたとのことで,比較的保存状態が良く,内部には赤錆は見られなかった。ただし,クロムメッキしたシャーシ上は表面がザラザラと錆び,指で触ると悪臭が付いてしまう。

大型の同調つまみ2つは,残念なことに原型のものでなく,大型のバーニアダイヤルの黒色つまみに交換されていた。

(2)Tube Replacement/真空管の交換

保守球の入手難のために14球のうち実に8球が原型と異なる球に交換され,ヒータ点火はセミトランスレスに改造されていた。

V1 50NHz RF Amp 6AQ8 (Original)

V2 50MHz Mixer & Osc 6BL8 (Original)

V3 RF AMP; 6BA6 --> 6CB6

V4 Mixer; 6BE6 --> 12BE6

V5 VFO & Buff; 6AQ8 --> 12AT7

V6 Q-Mult & Cal-Osc 6AQ8 (Original)

V7 IF Amp1 6BA6 --> 12BA6

V8 IF Amp2 6BA6 --> 12BA6

V9 AM det & ANL 6AL5 (Original)

V10 SSB/CW/FM 6BE6 --> 12BE6

V11 BFO & AF Amp 6AQ8 --> 12AT7

V12 AF out 6AQ5 --> 30M-P27

V13 BFO/VFO Power Sup OA2

V14 Power Sup 6CA4 --> Silicon Diodes

(3) CR Parts/CRパーツ

パスコンは後年の村田製の500Vセラミックスに置き換えられている。ケミコンも新旧混合である。抵抗も原型にない種々のものが使用されている。

(4)Cables/配線材

オリジナルの配線材は錫メッキ線と6色のカラーの単線と多芯線などであったが,ヒータ点火のほとんどをトランスレス化した際に,配線材として町で手軽に入手できるACビニールコードや屋内電話配線用の平行単芯線を裂いたもの,外径の太いシールド線などが使われていた。高周波の一部には太い3C2Vが使われている。なお,電話線には製造年が表示されており,改造は1985年であったことが分かる。

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Restoration Plan/修復の方針

(1)球は元にもどしたい。

(2)キャビネットやパネルの外観は原型のように補修したい。

(3)修復後10年位は性能を維持できるようにしたい。

(4)スピーカも作っておこう。

主要部品は錆が無いので,よっぽどのことが無い限り交換の必要はない。修復作業もちゃんとやるには,完全に解体し,全部品を取り出しチェック,再配線となる(TX88Aではそれをやった)。しかし,今回は手軽に済ませたい。しかし,球を元に戻すには回路を原型に戻す必要がある。現状の配線材は種々雑多だし配線の見栄えも良くないので,全面的に配線しなおす方が良い。そこで,主要部品はとりつけたまま,CR類の交換と再配線だけですますことにする。

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Disassemble-Remove CR Parts and Cables/解体:CR類とケーブルの撤去

半田付け部分はほとんど分解した。主要部品はシャーシから外さず,取り付け状態のままにしてある。コイルパック内部の配線は現状維持だが,それ以外のCRパーツ類,ケーブルは全てはずした。


Check the Parts/部品チェック

1994年の5月の連休を終えて,JR60の分解修理に取りかかり,チェック,約1カ月後の6月17日(金)に再配線が終わった。

(1)Power Transfomer/電源トランス(TO1-92A)

抵抗計によるチェックでは特に異常は認められなかった。

6.3V/2A ... 0.2-0.3W

0-100V-117V ... 3.4W,0.8W

6.3V/3A ... 0.2W

190-0-190V/110mA ...78.6,81.9W

6.3V/2A ... 0.2-0.3W

(2)Fixed Registers/固定抵抗のチェック

巻き線型ホーロー(20W),P型酸化皮膜金属(2W,1W),L型炭素皮膜(1W,1/2W,1/4W),P型炭素皮膜(1/2W,1/4W)とカーボン・モールド抵抗(1/2W)が使用されていた。テスターの抵抗計で数値をチェックしたところ,始めの4種は経年変化がわずか数%以内に収まり安定した性能を持っていることがわかった。しかし,最後のモールド抵抗だけは抵抗値の異常が大きく使用には耐えない。これは構造に起因したものである。L型やP型はセラミックスだから20年たっても変形しない。ところが樹脂モールドは一般に経年変化や加熱で収縮するため,外観は中央部が膨れ上がり内部の炭素には圧力がかかる,また周りはひび割れ湿度が侵入しやすい。2倍近くまで抵抗値が上がることがある。全て交換した方が良い。以下は測定値。

2.2M ... 2.46M

1.5M ... 1.639M, 2.78M, 2.15M, 1.96M

470k ... 450k

330k ... 398k, 640k, 622k

220k ... 235k

150k ... 151.3k

110k ... 202k

100k ... 139.4k

22k ... 22.7k, 22.9k

1.2k ... 1.194k

1k ... 1.207k

470 ... 491

100 ... 92.8

4.7 ... 6.5

(3)Variable Registers/可変抵抗器VRのチェック

VRが痛んでいるとやっかいだ。抵抗値もさることながら,同じシャフトを持つ新品など今日ではお目にかかれない。特にスイッチ付きなどはお手上げだ。測定結果は次の通り。

Q-Multi (10k,SW付き)... 6.4-11.39k

AF Gain (A500k) ... 576k

S-Meter (B1k) ... 1.005k

RF Gain (C10k) ... 15.47k

RF Gainだけは異常に変化が大きい。古いラジオではVRの炭素皮膜表面が酸化や汚れで抵抗値が上昇する例が良く見られるが,本機のVRは密閉型で汚れは入りにくいし,他のVRは同時代にもかかわらず非常に良い値を持っているから,事情が違うようだ。内部を開いてみると擦動子のバネが弱っている。これを曲げてやり,OKとなる。

(4)Capacitors/コンデンサ

ケミコンはブロック型,チューブラ型を問わず,全面交換する。オイルコンデンサも。劣化が心配されるので,

セラミックスは経年変化の心配は余りないが一応新品に交換した。

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Restoration of the sub-chassis/サブ・シャーシ・ユニットの修復

BFO兼Qマルチ・ユニットのサブシャーシは本体から取り外し,CRパーツ,配線材を撤去し,清掃ののち,新しい部品を用いて再組み上げを行った。50MHzコンバータ・ユニットのプリント基板は清掃のみで済ました。

From the left, BFO and Q-multi Unit, 50MHz Converter Unir/BFO兼Qマルチ・ユニットと50MHzコンバータ・ユニットの表面。

Bottom view of BFO and Q-multi Unit, 50MHz Converter Unir/BFO兼Qマルチ・ユニットと50MHzコンバータ・ユニットの裏面。

BFO兼Qマルチ・ユニットは全面的に再組立を行いました。CRパーツは交換しましたが,大型のマイカ・コンデンサだけは入手できませんでした。

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Restoration of Main Chassis/本体シャーシの修復
 

(1) Reassemble and Clean-up/分解・清掃

TX-88Aの場合と異なり,清掃・分解は最小限にしました。内部の錆がほとんど見られなかったからです。

半田付け部分はほとんど分解した。主要部品はシャーシから外さず,取り付け状態のままにしてある。コイルパック内部の配線は現状維持だが,それ以外のCRパーツ類,ケーブルは全てはずした。

(2) Re-wiring/再配線

ケーブル類の配線。私が愛用している古河ビーメックス線(耐熱)を用いて全て配線。カラー分けもしている。ただし,オリジナルの方が色は多い。ヒータ回路は気を配り,全て拠り線とし,セラミック・コンデンサでアースした。出力トランスの位置が悪いので,結果的にハムは出てしまったが。

(3)Soldering CR Parts/CR類の半田つけ

特に半田付けに注意点はない。小型の部品を用いて配線したので,昔に比べるとすっきりした。

Bottom View of Restored Chassis/完成後のシャーシ裏面。

Upper View of Restored Chassis/完成後のシャーシ上面。

シャーシの縁取りが光っているのは,実はここだけ紙ヤスリで磨いたから。メッキが錆びて,触るといやな臭いが指に付いてしまう状態だった。そこで,少し磨いて,上面にはクリア・ニスを塗ってしまったのだ。

Bottom View of the Cabinet/完成後のキャビネット底面。

キャビネットも実は錆が少し出ていた。そこで,ペンキを調合して刷毛塗りした。しかし,結果的にオリジナルの緑系とは違う色になってしまった。ダイヤル・ツマミは大型の黒を代わりに用いたが,水性のアクリル絵の具を使い,色を適当に調整して塗ってしまった。

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Calibration/調整

調整はマニュアルと参考文献に従って行った。私はSG(信号発生器)あるいはテストオシレタを持っていないが,代わりにデイップメータ,それに周波数カウンタと八重洲のFRG-7700を用いて,IFや受信周波数の調整を行った。まず,IFT455kHzの調整はデイップメータの信号をIFに直接結合し難なく行うことができた。問題は局発の受信周波数の調整であった。アンテナ端子から入力した高周波信号を用いて局発の調整を行うと,IFT455kHzだとスプリアスが強いため,どちらが本物か迷うところである。本当は

fREC = fVFO(high) - 455kHz

なのだが,同じ受信信号に対して本物fVFO(high)と偽物fVFO(low)がある。もし,VFOをぐるぐる回してテスト信号を受信すると2箇所受信できる位置がある。

fREC+455kHz = fVFO(high)

fREC-455kHz = fVFO(low)

そんなことは承知していた。ところが,一方,VFOを固定でテスト信号のダイヤルをぐるぐる回すと,

fREC(low) = fVFO(high)-455kHz

fREC(high) = fVFO(low)+455kHz

という具合に,発信器の周波数は低い方が本物というように逆の関係になるのを見逃してしまっていた。このため,高い周波数バンドでトラッキングが取れずに困ったのである。JA1AMH高田OM(TX88A,9R59Cの設計者)の文献により,ようやくそれが分かり,解決した。

To be Continued/つづく

何年たってもこの続きは書けないのですが,本ページはディジカメも持っていない時代に行った修復作業であり,原稿書きもそれ以来,ラジオや真空管の収集に忙しく暇がありません。中途半端なところで,掲載したのは心苦しいかぎりですが,この記事を掲載以来,読者から何度もJR-60の資料請求があり,いちおうの役目を果たしたと思います。多くの人がJR-60の修復にいどまれ,死にかけていた受信機がまた再び息を吹き返したのは私の喜びとするところです。

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