ANTIQUE JAPANESE RADIO/日本の古いラジオ

Tube Naming System Japan/

日本の真空管名称制度

(2003.11.29)+(2003.12.7)+(2004.1.12)+(2004.9.19)
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written by Koji HAYASHI, Ibaraki JAPAN


Contents/目次

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1.Introduction/ はじめに

日本生まれのラジオ用真空管(受信管)は外国に無い名前が付けられています。その名前の付け方(名称制度)についてまとめました。日本の受信管の命名法については,真空管マニュアルや雑誌記事などいろんな文献に紹介されてきましたが,その制度がいつ頃できたのか,これまでにどんな球が登録されたのか,といった話しになると途端に分からなくなります。「電子管の歴史」(日本電子機械工業会電子管史研究会編,オーム社)は日本の真空管開発者達の公式記録ですが,送信管については,無線通信機械工業会(CES)の送信管技術委員会が逓信省,NHKなどの協力を得て,1950年5月に送信管型名付与法を発表,これが後にJIS C7002として定められたと記されていますが,受信管はここにもありません。受信管についても日本工業規格JSI C7001が送信管と同じ時期に定められているので,同様の動きがあったはずですが,なぜか記述が抜けています。また,JIS以前から実際には日本生まれの受信管が沢山あって,一見アメリカ球のように見える名称を名乗っていますが,それも日本名です。以下は私が調べた日本名制度のルーツです。

1.1 American Tube Numbering System/ 米国の受信管命名制度

日本の受信管(受信用真空管, ラジオ用真空管)は,米国球のライセンス生産や模倣から始まったので,製造が始まった1920-1930年代はそのほとんどは米国名そのもの,乃至それに端を発した名称となっていました。そこで,まず米国名の由来から話をはじめることにしましょう。米国では国策により1919年にRCA (Radio Corporation of America)を設立し,RCAは米国内の主だった真空管製造会社(General Electric GE, Westinghous WH)とクロスライセンス契約を結び真空管製造販売グループを結成し無線通信や放送事業を独占するとともに,有線通信事業のAT & T(American Telegraph and Telephone)/WE( Western Electric)と不可侵条約的なクロスライセンス契約を結ぶことによって,米国市場を寡占状態に敷きました。(大塚久,John W. Staokes). そして,1920年からラジオ用の真空管の製造販売がRCA Radiotronのブランド名で開始され,UV-200, UV-201, UV-199などの名称の真空管が登場した訳です。

1.2 RCA Early-Time Tube-Type Numbering System/ RCAの初期の真空管名称制度

Radiotronの名称制度は,ごく簡単で,UV-という前置詞に,品種を示す3桁の数字,それに改良を加えると,UV-201-Aという具合にA, B, という文字を添付するというものです。前置詞UVは,ガイド用サイドピン付きの短い4本足ピンのベース(初期の真鍮製UVベース)を示し,UXはそれを改良した足の長いベークライト製4ピン・ベース(UX)を表す記号として用い,また真空管の品種は3桁の数字の内の下2桁で表し,先頭1桁は後に2は送信用大形管,1は受信管という具合に使い分けました。

Table 1.2 RCA Early-Time Tube-Type Numbering System/ RCAの初期の真空管名称制度

1st item

Numeric

Letter(s)

第1項

数字(複数桁)

2nd item

Alpabetic

Letter

第2項

英字1文字

- (Hyphen)

ハイフン

3rd item

Numeric

Letter

第3項

数字(1桁)

4th item

Numeric

Letter(s)

第4項

数字(2桁)

- (Hyphen)

ハイフン

5th item

Alpabetic

Letter

第5項

英字1文字

Examples

U

V

-

2

01

-

A

U

X

-

1

12

C

-

3

01

-

A

U

Y

-

2

27

CunninghamもRCAと1921年に提携し,後に吸収合併されましたが,下2桁の品種番号は同じ数字を用い,先頭1桁にCunninghamを示す3という数字が使われました。マイナーブランドの会社も各種真空管を製造し勝手な名称を付けましたが,真空管製造事業の成長とともに会社が整理され,ライセンス生産するようになりRCAの品種を表す3桁の数字が通用するようになりました。その場合,前置詞の英字を独自のものにしたり,あるいはUX-などRCAと同じ前置詞を用いて3桁の数字の先頭1桁だけを違えた会社名を表すといった具合に使われました。

1.3 Modification of RCA Tube Numbering System/ RCAの名称制度の改訂

しかし,さらにラジオ産業が成長するとRadiotron以外の会社も独自の品種を開発し販売しますし,それが優良品種と分かると今度はRadiotron側がライセンス生産を始めます。そこで問題となるのはその名称で,結局,米国で統一的な名称制度が必要になってきます。

1930年頃,RCAは名称を次のように改訂しました。例えば,従来の「UY-224-A」は,「RCA Radiotron 24-A」とする。時代はJohn W. Stokesの文献"70 Years of Radio Tubes andd Valves"には「1930年から実際に実施され1933年のR.M.A.による新型番制度が発足するまで続けられた」とあり,また大塚久さんの文献クラシックヴァルブには「1929年以降はUV, UX, UYの文字が型番からはずされ」とあるので,その頃のことだったのでしょう。この改訂はRCAのみならず,他社の型番を考慮した改訂だったはずです。すなわち,RCA単独の改訂ではなく,全米の企業による協定だった可能性があると推定できます。

1) 従来の品種(受信管)については,製造会社によりまちまちな前置詞を廃止し,変わりに会社名をフルネームで表示する。3桁の数字のうちの先頭1字(品種と送信管,受信管,会社名を表していた)を廃止,品種は下2桁だけで表示する,

1.4 American R.M.A. Tube-Type Numbering System/ 米国RMAの真空管名称制度

1933年,当時のラジオ産業会RMA(Radio Manufacturer's Asociation, 後にRETMA( Radio Equipment and Television Manifacturer Associates), さらに後にEIA(Electronic Industries Association))が,米国での統一的な名称制度を発足させました。その骨子は,

2) 新規の品種(受信管)については,次の表のように表すこととする。例えば,「2A3」。

Table 1.4 American R.M.A. Tube-Type Numbering System/ 米国RMAの真空管名称制度

1st item

Numeric

Letter(s)

第1項

数字(複数桁)

2nd item

Alpabetic

Letter(s)

第2項

英字1文字

3rd item

Numeric

Letter(s)

第3項

数字(2桁)

4th item

Alpabetic

Letter

第4項

英字1文字

0; 0V

1; less than 2.5V

2; 2.5V

6; 6.3V

Indicates Registrated Order

X,Y,Z are used for Rectifier

Indicates Number of Lead Wires (Electrodes)

Indicates Minor Modification

Examples

2

A

3

先頭の数字はフィラメント電圧を表し,まん中の英字は原則として登録の順に当てていく,その後ろの数字はベースに引き出した電極数の有効数とする。例えば,2A3の場合,プレート,グリッド,フィラメント(1本)で合計3となる,というものです。

これが,私達が良く知っているなぜか数字3桁が2桁に変わった理由でした。また,今でも親しみの有る名称2A3などが登場した時期でもあった訳です。この名称も時代とともに追加機能が増加し,全面改訂は不可能だったため体系的なものとは言えない欠陥だらけの名称制度となりました。例外規定が多いのもこの名称制度の特徴となりました。

従来のST管からメタル管が出現すると6A7と6A8では名称から外形やベースを推定することができないことになり,オリジナルのメタル管に対してオクタルガラス管ができると末尾にGを付加し,またGT管もGTを付加しそれだけは分かるようになりましたが,メタル管はどうしようもありません。第2次大戦後,ミニアチュア管やノーバル管(7pin 9 pin MT)が出現し,さらにサブミニアチュア,コンパクトロン,マグノーバル,ノバーなどが出現しましたが,区別のしようがありません。また電極の有効引き出し数では電極構造や用途など知る由もありません。時代とともに全く発展性の無い名称制度となってしまいました。その大きな原因は米国の真空管市場が余りにも急激に発展し,名称制度の変更がもはや不可能になっていたから,なのでしょうか。

なお,1930年代初頭に同じ電極でフィラメント電圧違いの球が現れ,過渡期には2.5V級と6.3V級で,2A5と42,2A6と55という具合に全く別の名称になりましたが,その後,2B5, 6B5という具合にできるだけ先頭の数字だけが異なる名称になるように登録されたようです。また1930年代末に150mA系のトランスレス球が現れ,新型の6SA7に対して12SA7,また従来の品種も6K7-Gに対して12K7-Gというように分かりやすいように登録されました。しかし,これは規則で定められていた訳ではないようで,登録の基本はあくまでも1つの品種を表す文字は「2A3」のようにすべての文字が必要でした。何故かといえば,「A3」を1つの品種とし,フィラメント電圧違いを考慮して全ての品番を「英字2文字+電極数」だけで表そうとすると,同じ電極数の真空管は,26x26=676品種しか登録できないことになるからです。そのため,1950年代初頭に登場した米国生まれの純血種は,3AU6, 4AU6, 6AU6, 12AU6などのように同じ一族の名称がすっきりと与えられているのに対して,欧州Philipsが開発したPCL82(16A8)の例では,1950年代の中頃にRETMA登録されましたが,有名な6BM8(6.3V)の一族が8B8(600mA), 16A8(300mA), という具合にてんでばらばらな名称が与えられたのです。これは外国企業のRETMA登録に対する一種の差別,あるいはいやがらせとも考えられますが,一方で初回の登録時にその発展性が予見できない場合はこのような不具合が生じやすい名称制度であったともいえます。

この名称制度はRMA名,後にRETMA(レトマ)名としていろいろな真空管データブックの解説に書いてあるので今日の日本でも有名ですが,後にEIA名と呼ばれるようになっています。真空管を米国市場に売るためには独自の名称ではなく米国で通用する名称が必要なので,1940年代後半から米国以外の有力な製造会社も結局,米国EIAに申請して真空管を登録し,RETMA名(EIA名)をもらいました。それがPhilipsのEL34/6CA7だったりした訳です。ですから,日本で目にするEIA名の真空管のルーツが米国ばかりだと思っていても案外,外国で開発されたものだったりする訳です。米国では外国企業が登録した真空管名リストというのも1960年代にまとめられたりしました。

また,受信管の名称はEIA名(数字+英字2文字+数字)で1970年代までに開発された全ての真空管がカバーできたように見えますが,実は開発した品種の数が余りにも多く破たんが目に見えていて,産業用の数字4桁管などとっくに破たんしており,1960年代途中から,メーカー独自の命名法による型番が復活してしまいました。我々がそのすべてを知らないだけだったようです。有名なところではRCAがAxxxxという開発番号を使用していたようで,必要に応じてEIA登録したのが実情でした。

1.5 European (Telefunken and Philips) Tube-Type Numbering System/ 欧州テレフンケンとフィリップスの真空管名称制度

戦前より真空管産業が進んでいた英国では,様々な企業が新型球を開発しては勝手な名称を名乗り,また他の会社も互換球も製造しましたが,自社の名称制度をがんとして譲らず貫いたので,ユーザーはほとほと困ったに違い有りません。真空管の互換性については何も情報が無くては分かりません。このため,古くから「互換表」作りが盛んに行われたようで,逆に言えば名称統一の気運をとうとう逃してしまいました。一方,大陸にあったドイツTelefunkenとオランダPhilipsは,米国の1933年の動きに反応して,翌年の1934年に今でいう「欧州名称制度」を作りました。この初期の名称制度はドイツを中心とした地域のラジオ管のみに使われたので,戦前の欧州ではそれほど普及した訳ではありませんが,戦後はPhilipsの欧州市場制覇により重要なものとなりました。Philips傘下のフランスや英国の企業もそれに準じる型番を使用するようになったので次第に欧州標準となっていきました。

Table 1.5 European (Telefunken and Philips) Tube-Type Numbering System

1st item

Alpabetic

Letter

第2項

英字1文字

2nd item

Alpabetic

Letter(s)

第2項

英字複数文字

3rd item

Numeric

Letter(s)

第3項

数字(1桁から)

A; 4V IDH

B; 180mA IDH DC

C; 200mA AC DC

E; 6.3V IDH

F; 1.3V DH

H; 4V DH

K; 2V DH

A; Diode

B; Twin Diode

C; Triode

D; Power Triode

E; Tetrode

F; RF Pentode

H; Heptode

K; Octode

L; Power Pentode

Y; Halfwave Rectifier

Z; Fullwave Rectifier

Indicates Registrated Order

Exaples

A

CH

1

B

CH

1

A

K

1

B

L

2

K

L

1


2. Japanese Name Receiving Tube During 1941-1951/日本名の受信管(1941-1951)

2.1 Japanese Early-Time Tube-Type Numbering System/ 日本の初期の真空管名前制度

日本名の真空管で有名なものは,1930年代初頭のナス管時代にあってはUY-227A, UX-226B, UX-112A, UY-247B, KX-112Bなどで,またST管時代の1930年代後半には,UY-27A, UX-26B, UZ-57A, UZ-58A, UY-56A, UY-47B, KX-12Fなどがありました。いずれも米国球を手本に日本独自に外形や中身を変えたものですが,名称はオリジナルを連想させるように米国名に添字を加えたものでした。前置詞を残したこれらの名称も実は一種の日本独自の名称制度で,世界に通用する名称でした。現に英国で出版された真空管マニュアルにはUY-47BはJapanとちゃんと書いてあります。

Table 2.1 Japanese Early-Time Tube-Type Numbering System

1st item

Alpabetic

Letter(s)

第1項

数字(複数桁)

2nd item

Alpabetic

Letter(s)

第2項

数字(複数桁)

- (Hyphen)

ハイフン

3rd item

Numeric Letter(s) or American RMA name

第3項

数字(2桁)または米国RMA名

- (Hyphen)

ハイフン

4th item

Alpabetic

Letter

第4項

英字1文字

U; General Tube

K; Rectifier

E; Electron Ray Tube

 

V; 4 pin

X; S/ST 4pin

Y; S/ST 5pin

Z; S/ST 6pin

T; ST Large 7pin

t; ST Small 7pin

S; Octal Glass/Metal

x; Peanut 4pin

y; Peanut 5pin

N; no base

(Acorn, etc.)

-

Examples

U

X

-

26

-

B

K

X

-

80

-

B

U

N

-

955

-

A

U

S

-

6L7G

U

S

-

6A8

U

Z

-

58

-

A

U

Z

-

57

-

S

E

Z

-

6G5

U

X

-

167

U

Z

-

1

-

A

米国の品種を国産化したり改良したりする場合はこの名称制度でも事足りましたが,はじめから日本独自の球を開発し製造する段になると困りました。新しい型の真空管はUX-167, UY-169, UZ-1A, UZ-4Aなどと米国に無い数字の組み合わせを考えねばなりませんでした。もっともそんな名称なら昔からありました。NVV-6A, NVV-6Bとか。しかし,中身が分かりません。何と名付けたら中身が分かってもらえるでしょうか。UY-247Bなどは米国の247とは全く別物,本来,別の名称にすべきとろこですが,結局247を連想させるように型番を付けました。業務管の分野では500番代,6001, 6201などという数字を使いました。しかし,所詮は借り物,数が増えるに従って,行き詰まりが目に見えてきました。この名称制度の限界はいかんともしがたいものがありました。何とかしなければならないと,動き出したのは実に1936年,さらに制定までに5年を要しました。

2.2 Appearance of Japanese Name Tubes in 1939/ 日本名の真空管の登場-1939年

いわゆる「日本名」の真空管は1939年に初めて登場しました。NHKの依頼により東京電気(東芝)が1939年に開発し市場に登場し,後に放送局型第122号,第123号受信機に使われ有名になったフィラメント電流150mA系列のラジオ用トランスレス管12Y-R1, 12Y-V1, 12Z-P1, 24Z-K2などがそれです。このシリーズは他に12X-K1, 12W-C1, 12Y-L1, 12Z-DH1の計8品種があった。この命名法は次節で述べるとして,いったい誰が作ったものでしょう?先の「電子管の歴史」の受信管の章には,「この型名と定格とはNHKによって,...決定されたもの」と記述されています。日本の小型真空管の名称制度は次節に述べるように,これらの真空管の登場の2年後1941年に発足しており,この制度はNHKが創設者だったように見えます。しかし,「小形真空管型名付与制度」は,「商工省の電気通信用品標準調査委員会において昭和11年(1936年)来調査に着手していた」という記述も次節の文献に見られることから,実際には官学産業界の原案が既に存在していて,NHKが原案に沿って先行して命名した,と考えるのが妥当と思われます。新しい名称制度は日本の法律で定められたため,先行して命名された名称は改めて同じ名称が「登録」し直されている,というのもなんとも面白い事実です。

池谷理氏が連載した「受信管物語(21)」に「小形管形名標準の制定」の記事があります。これによると,「昭和14年(1939年)11月24日に,日本標準規格(臨時JES第53号)で小型真空管の型名標準を制定している」。また,「なお,12Y-V1などの発売は形名からこの標準制定後と書いたが,「ラジオの日本」昭和14年7月号に広告が出ているから,こ春頃かもしれない」と書いています。

さて,1940年1月には実際にラジオ部品販売会社のカタログに掲載された品種がありました。何とエレバムが東京電気に負けぬ品揃え,しかも12WC1を先行して販売しているのが注目されます。

Table 2.2 Japanese Name Tubes appeared in the Hirose radio catagog in Jan 1940

Price (Yen)

Name

Elevam+

(卸し)

Matsuda++

(卸し)(定価)

12W-C1

3.20

12X-K1

1.90

2.10 3.00

24Z-K2

2.70

2.94 4.20

12Y-L1*

1.90

12Z-P1

2.30

2.45 3.50

12Y-R1

2.60

2.80 4.00

12Y-V1

2.70

2.94 4.20

廣瀬卸商報(S15.1)より,*は12Y-L4と印刷されていたが,12Y-L1の誤植と思われる。

+国策トランスレッス球,++新発売トランスレス球と紹介されています

2.3 Foundation of Japanese Receiving Tube Type Numbering System in 1941/ 小形真空管型名付与制度の発足-1941年

電気通信学会雑誌(Vol.25, p.90, May 1941)に掲載されている事業ニュースに「小形真空管型名付与 電気通信協会にて取り扱い開始」という見出しで,「商工省制定に係る臨時日本標準規格第53号 小形真空管型名付与規格第7条による型名付与機関として社団法人電気通信協会が指定せられ,その事務を取り扱う事となった」と報じています。これが私が図書館で探り当てた日本名真空管の歴史資料の最初のものであり,最も重要なものでした。この資料から,政府管轄のもと命名制度が確立し,名称登録事業が民間の機関に発注されたことが分かります。(Yahoo Auctionで見かけたマツダ新報の1941年版にも同様に日本真空管名称付与制度について例を(規)24Z-K2(A)にとって解説があることが分かります)

発足当初の命名法はTable 2.3に示すものです。米国の当時のラジオ産業会RMA(Radio Manufacturer's Asociation), 後にRETMA( Radio Equipment and Television Manifacturer Associates), さらに後にEIA(Electronic Industries Association)の名称制度を参考に,また欧州Philips-Telefunkenの名称制度も参考に作り上げたもので,日本の国情にマッチしたものです。米国名称制度は継ぎ足し式で一貫性が無く,また内容の表現能力に乏しい,また欧州式は馴染みが無いといった理由がこのような名称制度を生み出した動機でありましょう。

Table 2.3 Japanese Receiving Tube Type Numbering System in 1941

1st item

Numeric

Letter(s)

第1項

数字(複数桁)

2nd item

Alpabetic

Letter

第2項

英字1文字

- (Hyphen)

ハイフン

3rd item

Alpabetic

Letter(s)

第3項

英字(複数桁)

4th item

Numeric

Letter(s)

第4項

数字(複数桁)

5th item

Alpabetic

Letter

第5項

英字1文字

Heater Voltage Range

ヒーター電圧の範囲

Base and Outline

ベースと外形

separator

区切子

Structure and Usage

構造と用途

Registorated Order (Serial Number), coupled with 3rd item

登録順番号,第3項と組み合わせて意味を持つ

Mofification

第3項-第4項の品種を改造した時に付加する

 

Vf=filament Voltage

i=integer

1: 1 =<Vf<2

2: 2=<Vf<2.5

3: 2.5=<Vf<4

4 thrg 7:

i=< Vf <i+1

grater than 8:

i=< Vf <i+1

 

 

A; Spacial Base

B; Other

F; European 4 pin ST

Q; Acorn

S; Octal (US)

T; Large 7 pin ST

W; 7 pin ST

X; 4 pin ST

Y; 5 pin ST

Z; 6 pin ST

A; Power Triode

C; Converter

D; Diode

G; Gas Filled Rectifier

H; High mu Triode

K; Rectifier

L; Low mu Triode

P; Power Tetrode and Pentode

R; SCO Tetrode and Pentode

S; Space charge grid

T; Gass filled Grid Control

V; Vari-mu (RCO) Tetrode and Pentode

X; other

For case of K, an odd number indicates the half-wave rectifier and an even number the full-wave rectifier.

 

Exaples

2

X

-

L

2

A

This name system applied to a tube with max plate dissipation less than 20 W

 

2.4 First Registration/ 登録第1号 

さらに,電気通信学会雑誌(Vol.26, p.81, April 1942)に「国産ラジオ真空管の名称統一」という見出しで掲載されている事業ニュースがその第2報であって,第1回の審議結果であったように思われます。これが資料No.2です。

ラジオ科学(1960年8月号)の東芝ラジオ教室No.27に「真空管の名前の話(2)」が掲載され,当時の関係者がコラムを書いています。「戦前に(丁度アメリカのドウリットルが東京を初爆撃した日に日比谷の三信ビルでこの命名法を審議していたのです...)日本独特の新命名法が制定されました」。しかし,命名法自身は開戦前に政府により発令されていたのであってるから,爆撃のあった日は戦争中であって,この命名法により新しく申請のあった東芝マツダ支社の球と品川電機の球の命名について審議していたと解釈すべきでしょう。したがって,これは第1回の審議をさすものと思わます。とすれば,名称制度は戦前にできたが,実際に登録を開始したのは戦争が始まってからということになります。

ところが,面白いことには,第1回で審議した球は,1939年に開発されたトランスレス管ですでに同一の名称を持った球でした。参考として「従来使用の型名」がありますが,12Y-R1, 12Y-V1, 12Z-P1, 24Z-K2は有名どころであるが,その他に12X-K1, 12Y-L1, 12Z-DH1があります。また品川電機の6X-R1も従来の名前です。新規に開発された球は,実際にはこの審議会がのろのろしていたせいもあって,メーカが名称を自分で付けたか,あるいは合意のもとに事前にそれらしきものを付けていたと解釈すべきでしょう。これらは戦後も同じ名前で通しました。

ここで,名前を読み変えることにした球は,UZ-1C6B, UX-30, UX-1B4, UY-1F4です。しかし,実際にこのような球があるのかは分かりません。これらは戦後再び旧名を名乗ることになりました。他にも名前があります。

Table 2.4 First Registration Tubes with Japanese Name in 1942

JN system

Old Name

Date

 

Tokyo Shibaura Electric, Matsuda Branch/

東京芝浦電機マツダ支社

12W-C1

12Y-L1

12Y-R1,

12Y-V1,

12Z-DH1

12Z-P1,

24Z-K2

12X-K1

same as left

April 1942

Tokyo Shibaura Electric, Matsuda Branch/

東京芝浦電機マツダ支社

2Z-C2

2X-L2

2X-R2

2X-P2

UZ-1C6B

UX-30

UX-1B4

UY-1F4

April 1942

Shinagawa Electric/

品川電機

6X-K1

same as left

April 1942

Shinagawa Electric/

品川電機

12Y-H1

same as left

1942-1943

Shinagawa Electric/

品川電機

12Y-R2

same as left

1942-1943

2.5 Draft of Tube-Type Rearrangement by Japanese Electronic Tube Commitee in 1943/「電子管委員会の整理案」1943年1月

無線と実験1943年1月号に東芝の田尾司六氏が「類似特性管の廃止による受信管の整理」という記事を寄稿し,「電子管委員会の整理案」を引用しています。以下の表がそれです。当時の東芝の「マツダ受信用真空管」でさえ,「型録にある品種のみでも標準34品種,それに准標準品及び特種製品を合わせれば実に100種以上もある」とし,マツダ以外のメーカも参加している電子管委員会の整理案は,今後使用すべき品種として39種(ちなみに米国RCAは31種,ドイツTelefunkenは57種)を選んでいます。この整理案は1950-60年代にCES(無線機械工業会)が年度ごとに行った「TVラジオ用真空管推奨品種」と同じ性格のものです。我が国の整理案の特徴は,旧態然とした2.5V管を残している点,ならびに全てST管だという点でしょう。さらに,トランスレス管が登場して2.5V, 6.3Vならびにトランスレスの3品種がフィラメントを変えるだけで製造できるよう品種を限定した点にあります。また,面白いことに,戦後有名になった6Z-P1(12Z-P1の6.3V版)が「未完成」として名称だけ掲載されています。さらに,東芝の発言力は圧倒的であるとはいえ,ラジオ産業で僅かに生き残っていた他社(品川電機)の開発による品種として電池管のUX-167UY-169が含まれているのは面白いことです。

なお,この制度では名称登録に当たり真空管を3個用意し特性を測定し検査するとともに,詳細な規格を指定し,名称の定義に(規)という文字を付けました。

Table 2.5 Draft of Japanese Recommend Radio Tubes in 1943/ 昭和18年の日本の推奨ラジオ用真空管の案

Fillament Voltage(V)

Usage and Structure

2.0V

(Battery Tubes)

2.5V

AC

5.0V

AC

6.3V

AC & DC

12V

(Transf. less)

24V

(Transf. less)

Detector and Rectifier

Twin Diode Detector

Kt-6H6A

Halfwave Rectifier

KX-12F

12X-K1

24Z-K2

Fullwave Rectifier

KX-80

KX-5Z3

KY-84

Detector Amplifier

Twin Diode Triode

UZ-2A6

UZ-75

12Z-DH1

Twin Diode Pentode

Ut-6B7

Frequency Converter

Pentagrid

UZ-1C6B

Ut-2A7

Ut-6A7

12W-C1

Frequency Mixer

Pentagrid

Ut-6L7G

Detector Amplifier

Triode

UX-30

UY-56A

UY-76

12Y-L1

Pentode

UX-1B4

UX-167

UZ-57A

UZ-6C6

12Y-R1

Variable mu Pentode

UX-1A4

UZ-58A

UZ-6D6

12Y-V1

Power Amplifier

Triode

UX-2A3

UX-12A

Beam

UZ-6L6A

Pentode

UX-1F4

UX-169

UZ-2A5

UY-47B

UZ-42

*6Z-P1

12Z-P1

*under development

東芝の田尾司六,「類似特性管の廃止による受信管の整理」,無線と実験1943年1月号より(原文は日本語)

2.6 Japanese Name Tubes appears in the Controlled Sales Price List in May 1943/ 1943年5月の小売公定価格に見える日本名真空管

戦時中,真空管は価格統制されました。いわゆる「マル公価格」です。昭和18年5月1日改訂の資料から日本名管が見つかります。それが次の表です。第1回で審議された球の全てが掲載された訳では無いこと,さらに第1回では審議されなかった新しい名前(青字)が含まれていたことが分かります。この2本は現物もあるので,実在した品種です。

Table 2.6 Japanese Name Tubes appears in the Controlled Sales Price List in May 1943

Price (Yen)

Name

1st Class/

1級品

2nd Class/

2級品

3rd Class/

3級品

6X-K1

1.88

1.66

0.94

12X-K1

3.46

2.77

1.73

24Z-K2

4.76

3.80

2.38

12Y-H1

2.86

2.28

1.43

12Y-L1

3.72

2.97

1.86

12Z-P1

4.03

3.25

2.01

12Y-R1

4.64

3.78

2.31

12Y-R2

4.03

3.25

2.01

12Y-V1

4.85

3.88

2.42

池谷理,受信管物語(24), 表2より


3. After WWII/戦後

電波科学1948年3月(p.30)に「これから使われる受信真空管新型名」という記事が掲載され,日本名真空管のリストがありました。解説によれば,「「商工省 特許標準局」で定められたもので,新しい型のものができると「小型真空管型名付与委員会」に申請して名称をつけてもらい,(型名の)混雑を防ぐようになっている。」とあり,1948年の時点でなお戦前の制度が存続していることを示しています。ところが,2年後の1950年には,無線と実験1950年11月(p.52)に太田正二氏が「最近の受信用真空管をめぐって」という記事を寄稿し,「戦争が始まった頃,...,ラジオの受信管も従来のアメリカ名のものをつぎつぎと日本名に変えていった。戦後これらの日本名はほとんど使われず,実用されていない日本名は廃止することになり,従来のアメリカ名に変更することにした」とあります。これらの記事をもとに私が補足して作成したのが,戦後1948から1950年頃までの日本名真空管のリストTable 3.1 です。

3.1 Phantom Tube-Types/幻の名称

「実用されていない日本名」をは廃止することにしたのは,昔の小型真空管型名付与委員会でしょう。市場や管球メーカは,もともとの米国名の球ならびに米国名を元祖に持つ日本名の球については,戦争中も戦後も,一貫してその名称で通したようで,今日までの調査において現物を見たことはありません。もともと小型真空管型名付与委員会も,産業界を代表する者も多く集まっていることを考えれば,戦争当初は「次第に切り替えていくこと」位にし,戦後は「取りあえず従来通りに製造を優先し」だったに違いありません。一度市場に浸透した名称はおいそれと変えることができないのは事実であり,これをひっくり返すのは多大な費用と人々の忍耐が必要でした。したがって,米国名を言い換えた日本名管(Table 3.1 赤字の品種)は,いろいろな出版物にのみ痕跡を残しながらも,ついに幻と消えた真空管名だった訳です。

ただ,このような名称の言い換えが,敵国の名称だから使わない,という理由で作られたのかというと,そうではなく,本来は数多く登場した特性類似の真空管が異なる体系の名称で呼ばれていて,渾沌としている,これをいまのうちに解消せねば,という動機があったはずなのです。この赤字の品種をよくよく眺めてみるとどこかで見たことあるような?,実は戦時中に作ったTable 2.5の「整理案」に出てくる推奨品種だったのです。UZ-57A, UZ-6C6, 12Z-R1がフィラメント電圧違いの兄弟だなんて名称を聞いただけでは全然分からないのであるから,整理したくなるのも当然といえば当然だった訳で。一方,米国品種をやみくもに日本名にした訳でないことは,我が国でもっともポピュラーだった並四,高一受信機に不可欠な在来品種,UX-26B, UY-24B, などが日本名を割り当てられていないという事実を見れば,うなずけることでしょう。

不幸にして戦争に入ってしまったこと,またさらに不幸にして,米国に負けてしまったことが一層,この言い換えを見窄らしいものに見せてしまったのだと思います。日本の受信管の名称の混乱の原因の1つは,米国の名称制度そのものの矛盾と欠陥そのものにあったのだから。米国でははじめに数字のみ,次に数字と英字の組み合わせにより意味を持たせましたが,不完全なまま1970年代まで貫いたのは万人の認めるところです。

Table 3.1 Japanese Name Tubes During 1942-1952

JN system

Old Name

Maker

Date

Power Triode

5X-A1

3X-A2

UX-2A3

UX-12A

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

Beam Power

30G-B1

(35L6GT*)

TEN

1947-(1948)-(1950)-

 Converter

12W-C1

3W-C1

6W-C1

2Z-C2

6W-C3

12G-C4

12G-C5

6G-C5

12W-C5

6W-C5

3W-C5

6W-C5A

-

Ut-2A7

Ut-6A7

UZ-1C6B

Ut-6L7G

N-361

-(12SA7GT*)

-

-

-

-

-

Elev, Matsuda

-

-

-

-

JRC

Matsuda, TEN

Matsuda?

Matsuda

CES All JAPAN

CES ?

CES Matsushita

April 1942

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

April 1942-1950/

-(1948)-1950/

(Dec 1945)

1947-(1948)

(1950)

1948-(1948)

1948-(1948)

(1952)

-(1948)

Diode

6W-D1

6G-D1

Kt-6H6A

-(6H6GT)

-

CES ?

-(1948)-1950/

-(1948)

Diode Triode

12Z-DH1

3Z-DH2

6Z-DH2

6Z-DH3

12G-DH3

12Z-DH3A

6Z-DH3A

3Z-DH3A

12G-DH4

12G-DH5

12G-DH6

-

UZ-2A6

UZ-75

-

-

-

-

-

N-231

-

-

Matsuda

-

-

CES All Japan

Matsuda

Matsuda

NEC

CES ?

JRC

Matsuda (=12G-DH3)

TEN

April 1942

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

1947-

1948-(1948)

1948-(1948)

(1950)

(1952)

(Dec 1945)

1947-(1948)

1947-(1948)

Diode Pentode

6W-DR1

Ut-6B7

-

-(1948)-1950/

High mu Triode

12Y-H1

Tou

1942-1943

Low mu Triode

12Y-L1

2X-L2

3Y-L3

6Y-L3

4B-L11

-

UX-30

UY-56A

UY-76

30M

Matsuda

-

-

-

-

April 1942

April 1942-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

Rectifier Halfwave

6X-K1

12X-K1

5X-K3

5G-K3

30G-K5

30G-K7

-

-

KX-12F

-

-

-

Tou

Matsuda

-

Matsushita

Matsuda

TEN

April 1942

April 1942

-(1948)-1950/

(1950)

1947-(1948)

1947-(1948)

Rectifier Doubler or Fullwave

24Z-K2

5X-K4

5X-K6

6Y-K8

12G-K10

36Z-K12

6G-K14

-

KX-80

KX-5Z3

KY-84

N-021

-

-

Matsuda

-

-

-

JRC

Matsuda

TEN

April 1942

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)

1948-(1948)

(Aug. 1949)

Power Pentode

12Z-P1

6Z-P1

3Y-P1

12Z-P1A

6G-P1

2X-P2

3Y-P3

3Z-P4

6Z-P4

6Z-P5

2Y-P6

12G-P7

2Y-P8

30G-P9

-

-

-

-

-

UY-1F4

UY-47B

UZ-2A5

UZ-42

UZ-6L6A

UY-169

N-052

-

-

Matsuda

Matsuda

Matsuda

Matsuda

Maruko?

Matsuda

-

-

-

-

-

JRC

Tou

Matsuda

April 1942

-(1948)

-(1948)

1948-(1948)

(1950)

April 1942-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

(Dec 1945)

-(1948)

1947-(1948)

SCO Tetrode and Pentode

12Y-R1

3Z-R1

6Z-R1

2X-R2

12Y-R2

2X-R3

12G-R4

2Y-R5

12G-R6

6G-R7

-

UZ-57A

UZ-6C6

UX-1B4

-

UX-167

N-051

-

RH-4/12SJ7

-

Matsuda

-

-

Matsuda

Tou

-

JRC

Matsuda?

Matsuda

TEN

April 1942

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

April 1942-1950/

1942-1943

-(1948)-1950/

(Dec 1945)

-(1948)

1947-(1948)

(1950)

RCO Tetrode and Pentode

12Y-V1

3Y-V1

6Z-V1

12Y-V1A

2X-V2

12G-V3

12G-V4

-

UZ-58A

UZ-6D6

-

UX-1A4

N-053

similar to 12SK7

Matsuda

-

-

Matsuda

Matsuda

JRC

TEN

April 1942

-(1948)-1950/

-(1948)-1950/

1948-(1948)

-(1948)-1950/

(Dec 1945)

1947-(1948)

Red=Discontinued Japanese Tube Names in Nov.1950

参考文献(1) 電波科学技術部,これから使われる受信真空管新型名,電波科学,1948年3月,p.30

参考文献(2) 太田正二氏,最近の受信用真空管をめぐって,無線と実験,1950年11月,p.52)

3.2 Exception and Removed Tube-Types/ 例外と抹消された名称

さて,Table 3.1において米国互換管でないものも日本名を廃止したものがあります。4B-L11(30M)は現在使用していない,12Fは日本独特であるが例外と,理由のような言い訳をしています。さらに,戦時中に登録されながら,戦後消えてしまった名称もあります。12Y-H1, 12Y-R2がそれです。また,1950年の文献には「2Y-P8, 2Y-R5, 6G-P1は現在製造されていない」とあります。そのうち,前者2つは1947年に製造の記録があり,また現物もあります。一方,6G-P1については,三重県の津田孝さんの御研究によれば1951.4に松下がMJ誌に広告を出しているそうですので,1950年11月の時点では「まだ」製造していなかった新しい品種で,その後,直ぐに廃止になったものと思われます。

3.3. Registrated Order/ 登録順

(1)6Z-DH3とJRCのNシリーズ

戦後現れた球の中で,一番早く開発されたのはJRCのNシリーズのオクタル管(1945年12月, N-361, N-231, N-052, N-051, N-053)なのですが,受信管の日本名付与制度が思い出されたのは1947年頃だったようです。まず,ラジオ球の分野で戦後主流となる5球スーパー用の真空管が量産されることになり,少しでも廉価にする目的で従来の検波管UZ-75から2極管の1つ電極を削除したものを作り,これを6Z-DH3と命名したようです。UY-75との互換性を持たせるため,トップ金具を維持していました。1947年に東芝マツダから6Z-DH3がデビューし,また同年川西機械(神戸工業)テンも製造しています。この時点で,JRCのNシリーズの登録が行われたので,検波管だけは12G-DH4となり,他は皆Table 3.1の赤字の次の番号となっています。(12G-C4, 12G-P7, 12G-R4, 12G-V3, 12G-K10)。

(2) 東芝や川西機械の175mAトランスレス管と6W-C5

1946年には新たなラジオ用GT管の開発が東芝や川西機械で始まり,1947年に試作を終え,1948年に管名を取得しました。これらはいずれも175mA系列のトランスレス管で,もともとは米国の150mA系列に対して117V/100Vの割合でヒータ電流を増強したもののようです。東芝は12G-C5, 12G-R6, 12G-DH5, 30G-P9, 30G-K5, 川西機械は12G-C5は同じで,12G-V4, 12G-DH6, 30G-B1, 30G-K7です。統一したものができそうに思えますが,当時は各社とも独自に開発しました。東芝のコンバータ管C5は,原形は米国12SA7ですが,12V/175mA系といえばまさに戦時中に開発したマツダCH-1の焼き直しでもありました。R6はRH-2/ソラの焼き直し,DH5は6Z-DH3に同じ,新規に開発したものはP9とK5で,P9はビーム管ではなく普通の5極管でEb180Vを要する出力管,K5は70mAを出力する整流管でした。一方川西機械はコンバータは東芝と似たものとなり同じ型番が与えられました。V4はリモートカットオフ管,DH6はUZ-75(6Z-DH3)相当,B1はEb90Vで働くビーム出力管,K7は100mA出力できます。要は米国のGT管12SA7, 12SK7, 12SQ7, 35L6, 35Z5までの完全な175mA日本版でした。

この1947年の試作の段階で,東芝はもうひとつの175mAの系列を作っていました。それがST管のトランスレススーパー管で1948年にGT管と一緒に発表した12W-C5, 12Y-V1A, 12Z-DH3A, 12Z-P1A, 36Z-K12でした。ヒータの改良球が12Y-V1A, 12Z-P1A, ヒータと外形の改良が12Z-DH3Aとなっています。コンバータ管12W-C5は12G-C5と同じ内容で,さらに6.3V版の6W-C5も同時にデビューしたので,C5にはAは付きません。整流管36Z-K12は24Z-K2のヒータ電力を50%upしたものでエミッションも大幅に増大し,改良球とはいえ36Z-K2Aとはなりませんでした。なお,6W-C5は米国で主流のコンバータ6SA7GT相当の我が国独自のST管で米国にはありません。唯一の利点は当時の日本の製造できるST管だったということでしょう。当時良く停電する,供給されても電圧低いという国内電力事情から,従来のコンバーター管Ut-6A7では性能がでなくて,欠点を克服した米国6SA7相当の球が望まれていました。開発に当たり,東芝は原形の6SA7-GTのフィラメント電流0.3Aを0.35Aに増やし電圧降下に強いようにしたと説明しています。

東芝のGT管は1948年2月に一旦名前が割り当てられ発表されましたが,12G-DH5は電極が6Z-DH3と同じだったので,4月に再度変更され,12G-DH3となり市場に現れました。そんな訳でDH5は消え失せてしまい,市場にはTENの次番の12G-DH6だけが残り,12G-DH5は幻の真空管となりました。(もっともDH6も幻ですが)

(3) 6G-K14と6G-R7

1949年頃にはGT管製造は米国互換路線を取ることが決定され1950年頃から続々と米国互換管が国産化されることになりましたので,日本独自のGT管も廃止の運命を辿りました。しかし,米国互換路線が決定するまでの僅かな期間に,さらに6.3VのGT管が幾つか開発されました。神戸工業TENは国産トランスレス管の開発時に,6.3VのGT管の開発にも着手し,6H6-GTや6AC7の試作をしていましたが,1949年にデビューしたのは6X5-GT相当の6G-K14と6SD7-GT相当の6G-R7だったようです。何故かまだ米国名は使えなかったようです。また,コンバータ管は1950年以降米国型6SA7-GT12SA7-GTが製造されましたが,特に6.3V管は6W-C5の哀愁が強くヒータを増強した6G-C5が丸子真空管?から登場したと伝えられています。

(4) 6W-C5ファミリーと6Z-DH3A

コンバータ管6W-C5がすっかり普及すると今度は昔の2.5V管Ut-2A7の代替球も欲しくなるもので,開発から4年後の1952年に2.5V管の3W-C5が従来のUt-2A7等の保守用管を確保する目的で登録されました。

検波増幅管の6Z-DH3(トップグリッド管,または頭に金具が付いたダブルエンド管)は,先に米国UZ-75(同じくダブルエンド管)の2極部1個を省略した簡易版として1947年に東芝により開発されたと説明しました。また,翌年の1948年に175mAトランスレス用にオクタルの12G-DH3(グリッドが足にあるシングルエンド管)とSTの12Z-DH3A(同じくシングルエンド管)が開発されたことも説明しました。GT管は米国では1940年頃にシングルエンド化され,戦後のラジオはそれが当たり前になっていましたが,日本では相変わらず古いST管を使用しているばかりか,戦後の新型ST管6Z-DH3は古い設計UZ-75の互換性を重視してダブルエンド型,これをシングルエンド化した12Z-DH3Aを世に出すに当たり業界では12V管限りの特例として認めたという経緯が

扱われたそうである。

さて,6.3VのST管6Z-DH3A(シングルエンド管)はいつ誕生したのでしょう?製造業界では6.3V管は6Z-DH3を標準管として製造することを申し合わせていたところ,「N社が」

ています。ST管の6Z-DH3はトップ金具がありますが,同じDH3でもオクタル版はトップ金具がありません。ST版の175mAトランスレス用はトップ金具を無くした改良型なのでわざわざAを付けて12Z-DH3Aとしたと言われています。6.3V版はトップ金具付きのまま行こうと申し合わせたのにNECが抜け駆けして1948年中にトップ金具が無い6.3V管6Z-DH3Aを作ってしまった(内尾さんの推測)ので,1950年のリストには6Z-DH3Aが現れました。なお同じ一族の2.5V管の3Z-DH3AUZ-2A6の保守用としてさらに遅れて5M-K9などと共に1952年に誕生しました。

片波整流管5G-K3は米国互換型GT管の国産化に混じって貧乏な日本のラジオにぜひ必要な経済的な整流管として1950年に誕生しました。命名はこの時,旧5X-K3(12F)が廃止になったので,その穴埋としてK3が再び割り当てられました。片波整流管はK1からK7までの4品種のうち1つだけが廃止になったので,次に登録すべきものがあるとすればK9です。この表を見れば,1952年に登場する新型ミニアチュア管5M-K9がどうしてK9になったかが分かるでしょう。


4. JIS Name/JIS名 1951-

4.1 JIS (Japanese Industrial Standard) and CES (Communication Engineering Standard)/日本工業規格JISと通信機械工業会規格CES

1951年,受信用真空管の名称を与える規則が,日本工業規格(JIS C6001)に制定されました。これは,1941年に制定されたものを基本に改訂した内容となっています。

JIS (Japanese Industrial Standard) on Vacuum Tube Name, JIS C7001 was published in 1951. (modefied in 1965 and 1970). (http://www.and.or.jp/~taihoh/vac/JISC7001.html)

JISの名称制度が,戦前の小型真空管型名付与制度と大きく異なる点は,真空管の規格そのものは含めないところにありました。詳細な規格は民間企業の寄り合い日本電子機械工業会(EIAJ)の通信機械工業規格CES)側で定めたのでです。規格は不具合やマイナーチェンジに直ぐに対応する必要があり,JISのような規格で一々定めていては不都合だったのです。だからJISは一般に共通する規格の制定だけに止め,1つの品種毎の詳細な規格制定にはCESで定めるようにしたのでした。また,JIS名を持たない旧製品,ならびに米国名の製品を国産化した製品の規格は,なにに基づいて標準化するのか?ということで,日本では通信機械工業会の規格CESに規定し,各メーカーがこれを守るというようにしました。ここに,日本で作られる全ての受信管の規格が名称とともに登録されることになったのです。

米国製の真空管と日本製の真空管の性能の違い,例えば,外形寸法,電極間容量,ウオームアップタイムなど,通常表に現れない性能について,ここに規定された規格にその違いを求めることもできます。

4.2 Freedom Choice to Registration/ 登録は任意

戦後の反省点は,頻繁に性能を改善するには,いちいち審議会を待っていられない,という事情がありました。現に,戦後のどさくさ期には民生用受信管は新しい品種がメーカーの独自の名前で販売された。KX-12K, KX-80BK, KX-12FK, UY-47BKなど。また,JIS名制定後も,マジックアイなどでは6E5-M, 6E5-D, 6E5-MT, 6E5-P, 6E5-Wなどの型番が出現し,これらは順次JIS名に登録されましたが,6E5-Mなどは登録後もユーザー側には馴染みが薄く,最後にはJIS名ではなく,ローカル名の6E5-Mの方で販売されたようです。戦後,日本名を積極的に使いはじめたのは,6R-R8や19M-P11などやはり,官営で開発を進めた通信用の真空管でした。

4.3 Proceeding of Japanese Tube-Type Numbering System/ 制度の進化

1956年頃ならびに1965年と1970年に改訂が行われています。1965年の改訂では1950年代末からの新管種の登場により記号を増やすなどの改訂を行った。GEのコンパクトロン(C; デュオデカル 12pin),欧州のマグノーバル(H; 9pin),ニュービスタ(N),セラミック(K)がそれである。なお,Sylvaniaの9T9(Neonoval)は従来のミニアチュア9ピン(R)に分類され,またRCAのNovarノバー(9pin)は採用されなかった模様。LとTは廃止になった模様。1970年の改訂では特に増えていない。

しかし,1970年以降,真空管産業の衰退とともにその使命は終わりを遂げ,ついにJIS名は機能しなくなり,8045Gなどへんてこな日本名真空管ができたことは有名でした。

ヒータ電圧の数字の定義はもともと日本式と米国式では違っていました。例えば,有名なところでは,TV用音声出力管4M-P125AQ5の頭の数字が違いますが,ヒーター電圧は同じ4.7Vです。これは1956年頃に改訂され1956年12月以降登録するものは,米国式(レトマ方式)に準拠することになりました。なお,一木吉典著「全日本真空管マニュアル」ラジオ技術社,(1959, 1969, 1974)の裏表紙に「真空管の名称について」があり,日本標準方式(JIS)の表の第4項の数字の欄にある「特性による分類」にも御丁寧に「1956年12月以降登録されるものは厳密にレトマ方式に準拠する」と書かれていますが,日本方式は登録順番号が当てられるので,これは誤りです。

Table 4.3 JIS Receiving Tube Type numbering System/JIS 受信管名称制度

1st item

Numeric

Letter(s)

第1項

数字(複数桁)

2nd item

Alpabetic

Letter

第2項

英字1文字

- (Hyphen)

ハイフン

3rd item

Alpabetic

Letter(s)

第3項

英字(複数桁)

4th item

Numeric

Letter(s)

第4項

数字(複数桁)

5th item

Alpabetic

Letter

第5項

英字1文字

Heater Voltage Range

ヒーター電圧の範囲

Base and Outline

ベースと外形

separator

区切子

Structure and Usage

構造と用途

Registorated Order (Serial Number), coupled with 3rd item

登録順番号,第3項と組み合わせて意味を持つ

Mofification

第3項-第4項の品種を改造した時に付加する

B; Other

C; Compactron (Duodecal)

D; Button base Subminiature

E; Flat base Subminiature

G; Octal base Glass (GT)

H; Magnoval

K; Ceramic

((L; Loc-in (Loktal))

M; Miniature (7pin)

N; Nuvistor

R; Noval (9 pin Miniature) or Neonoval (9T9)

((T; Large 7 pin ST))

W; 7 pin ST

X; 4 pin ST

Y; 5 pin ST

Z; 6 pin ST

A; Power Triode

B; Beam Power

C; Converter

D; Diode

E; Tuning Eye

G; Gas Filled

H; High mu Triode

K; Rectifier

L; Low mu Triode

P; Power Tetrode and Pentode

R; SCO Tetrode and Pentode

S; Space charge grid

V; Vari-mu (RCO) Tetrode and Pentode

U; other

For case of K, an odd number indicates the half-wave rectifier and an even number the full-wave rectifier.

 

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