1997年5月31日(土),電気には余り詳しくないラジオ・コレクターから入手。@8k。決め手は,Serial No.が紙製でシャーシに貼り付けられているなど,初期の体裁を備えていること。錆が進行しており,程度は良くないが,鳴る。回路図(RC-94W@),ご注意(RC-94N@)がキャビネットに貼り付けられ,残っている。
状態
- 購入前に通電してもらい良く鳴ることを確かめたにもかかわらず,20km離れた我が家に持ち帰り電源を入れてみると蚊の鳴く声程度であった。
- ダイヤル・ツマミが全部は回らない。低い周波数側は途中で止まる
- ダイヤルを回すとパイロット・ランプがときどき消えたりする。
- 真空管をチェックすると,下記の通り。
6W-C5, ナショナル(TE, 1952.5)...gm=65-52-54
UZ-6D6,ナショナル(TE, 1952.5)...gm=58>40
6Z-DH3A,ナショナル(TE, 1952.5)...[em,gm]=[28,42]>[19,20]
6Z-P1,東芝マツダ(・ア)...gm=★34<39,hkショート
KX-12F,東芝マツダ12F(青字でト) ...gm=57.5>40?
始めの3本はオリジナルで,ややエミ減の傾向。特に6W-C5は点火時のエミッション低下が激しく時間とともにgmは減少。残りの2本,出力管と整流管はナショナルからマツダに変更されている。KX12Fは活きが良いが,6Z-P1はエミ減で,しかもhk(ヒータ・カソード)間の絶縁が低下している。
修理1 1997年8月17日頃
- ダイヤルが全部は回らない原因は,指針の取り付け角度が悪いからネジをゆるめて針を動かし固定すれば良い,と思ったら,そうはいかなかった。
- PLはダイヤル指針の回転軸と同軸構造で,PLのビニール線はバリコン軸にコイル状にまいてある。これが余分なテンションをかけてダイヤルを止めてしまう原因だった。ビニル線の取り出しを工夫し,回転をスムーズにした。
- PLがときどき消える原因は,PLの電球が木製キャビの穴にあたりねじ曲げられ接触不良となるのが原因。機械的に直す。
- 糸かけなおす。糸かけは正規のルートを通っていない?
- さて,感度低下の原因は,ははん,6Z-P1が悪いんだな,と良品と交換してみるが,感度良くならず。では,原因は回路にあるのかと,まず部品のチェック。
測定
番号 |
抵抗値 |
電力と型 |
用途 |
メーカ |
測定値 |
変化 |
R3 |
300 |
1/4L |
6D6-k |
松下 |
312 |
+4% |
R11 |
600 |
1/2L |
6ZP1-k |
|
669 |
+11.5% |
R12 |
2k |
2L |
+B Filter |
|
2.14k |
+7% |
R2 |
10k |
2L |
6WC5,6D6-sg |
|
10.8k |
+8% |
R1 |
20k |
1/2L |
6WC5-Rgosc |
|
20.3k |
+1.5% |
R9 |
50k |
1/4L |
6ZDH3A+B Decoupling |
|
49.5k |
-2% |
R6 |
50k |
1/4L |
Det-Filter |
|
54.1k |
+8.2% |
R8 |
250k |
1/4L |
6ZDH3A-p |
|
260k |
+4% |
R10 |
500k |
1/4L |
6ZP1-g |
|
460k |
-8% |
R4 |
1M |
1/4L |
AGC |
|
0.83M |
-17% |
R7 |
2M |
1/4L |
6ZDH3A-Rg |
|
1.97M |
-1.5% |
R5 |
100k |
VR |
AF-Volume |
|
103.8k |
+3.8% |
番号 |
容量 |
種類 |
用途 |
測定値 |
容量変化 |
C3 |
0.1μ |
Paper松下製 |
AGC |
0.33μ (R2) |
X3.3 |
C6 |
0.05μ |
|
6D6-sg |
未測定* *10kを通じて10mに接続 |
計測不能 |
C7 |
0.05μ |
|
6D6-k |
0m/R2* *並列に150wWあり |
計測不能 |
C9 |
0.01μ |
|
6ZDH3A-G直流カット |
0.05μ |
X5 |
C12 |
0.01μ |
|
AF1-AF2 結合 |
0.042μ |
x4.2 |
C5 |
0.005μ |
|
AC100Vラインのアース |
未測定 |
- |
C16 |
0.003μ |
|
OPT2次 |
未測定* *並列にOPTのCoil |
-
|
C8 |
0.00025μ |
|
IFT2-検波出力高域カット |
未測定 |
- |
C11 |
0.00025μ |
|
6ZDH3A-P高域カット |
0.015μ* *250kを通じて2mに接続 |
計測不能 |
C10 |
0.0001μ |
|
VR出力高域カット |
未測定 |
- |
その他,C1,C2はVC, C4:445pF/円筒L型チタン・コンデンサ,
C13:2μF/350WVケミコン,C14は5μF/50WV,
C15:10μF/350WV,C17:20μF/350WV
|
回路図の表示 |
修理前 |
C12交換後 (修理2参照) ニッポンケミコン製アルミ缶入りチューブラ型オイルコンデンサ未使用品 (1960年代) |
C12再交換後 (修理3参照) Kowa製オイルコンデンサTVジャンク品 (1960年代) |
ヒータ巻き線 |
6.3Vac |
6.13Vac |
|
|
KX12F-p |
245Vac |
240Vac |
|
|
KX12F-f |
248V |
215V |
|
236V |
6Z-P1-p |
243V |
212V |
|
230V |
6Z-P1-sg |
205V |
172.6V |
|
192.5V |
6Z-P1-k |
11V |
18.63V |
|
10.30V |
6Z-P1-g |
- |
16.75V |
19V |
0.216V |
6Z-P1 Egk |
- |
-1.88V |
|
-10.084V |
6Z-DH3A-p |
70V |
58.5V |
|
65.8V |
6Z-DH3A-g |
- |
0.826V |
|
-0.812V |
UZ-6D6-p =6Z-P1-sg |
(205V) |
(172.6V) |
|
(192.5V) |
UZ-6D6-sg |
90V |
- |
|
- |
UZ-6D6-k |
- |
2.13V |
|
2.42V |
6WC5-p |
(205V) |
(172.6V) |
|
(192.5V) |
6WC5-sg |
(90V) |
- |
|
- |
AGC=6WC5g +UZ6D6g |
2V |
-0.185V |
|
-0.07V |
一方,6Z-P1のカソード電圧は異常に高い。プレート電流が流れすぎなのだ。バイアスが狂った原因は何だろう。6Z-P1の劣化も考えまともな球に交換してみたが,音が小さいのは直らない。とすれば,原因は結合コンデンサの劣化,漏洩が疑われる。Rg=500kに流れる電流はEg=16.75VからIg=33.5μA。6Z-DH3Aのプレート電圧Eb=58.5Vだから,結合コンデンサの両端電圧Ec=41.75V,絶縁抵抗はRc=1.246MΩ。通常は数100-数1000MΩあるから,数100分の1以下に低下していることになる。
そこで,C12を信頼できるNippon Chemicon Oil Condenserの新品(未使用の古いストック)に交換してみた。このオイル・コンデンサはアルミ缶入りで,それまでの紙巻きに比べて含浸材が解け出るような事故はなく1960年代には最も頼もしいコンデンサの1つだった。ところが,いざ通電してみると,音が小さいのは改善されない。C12交換後の電圧は交換前とほとんど変わらない。それどころか,やや悪くなっているようだ。これには参った。
訳の分からぬところで,C8,C11を交換してみた。本機は,常識はずれに紙コンを使用しているが,本来は高周波バイパスであり,通常はマイカやチタン・コンデンサが使われるところである。結果は,期待はずれで,何も変わらなかった。
こうなると,どうしても,コンデンサの漏洩電流を実測しなければならない。
今回,9Vの電池と560kの抵抗1本で,簡易に測定してみた。
絶縁抵抗を測りたいコンデンサ(C)に抵抗(R=560k)を介して直流電源(9Vの電池)を接続,このときRとCの電圧をテスタで測定すれば良い。オームの法則からRに流れる電流(漏洩電流)が計算でき,近似的にCの抵抗(絶縁抵抗)が求まるのである。
Table 4 結合コンデンサの絶縁抵抗の比較
サンプル |
メーカ |
規格 |
製造コード |
電圧(R) |
電圧(C) |
漏洩電流 |
絶縁抵抗 |
|
KOWA フィルム |
630V/0.1K |
(T)5101 1985年頃 |
0.4mV |
9.32V |
0.00071μA |
13.05GΩ |
|
Nippon Chemicon OIL |
.01 (M) 400WV CP-C |
0960051 1960年9月 |
0.858V |
8.53V |
1.53μA |
5.575MΩ |
|
同上 |
同上 |
同上 |
0.498V |
8.86V |
0.889μA |
9.96MΩ |
|
同上 |
同上 |
同上 |
1.075V |
8.33V |
1.92μA |
4.34MΩ |
|
同上 |
.1(M) 400WV CP-C |
0258151 1958年2月 |
1.0V |
8.45V |
1.79μA |
4.73MΩ |
こうして,修理は終わった。