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私は結構な数のラジオTV中古球を通電することなく死蔵していましたが,1996年秋に思い立ってTV-7/UをMJ誌交換欄を通じて購入し,片っ端からテストを始めてかなり楽しむことができました。その間,意味不明だったメータ指示値の解釈,マニュアルに記載されていない近代TV球や日本球のテスト,新しい球種のソケット・アダプタの製作も行ってきましたので,これらの情報をお知らせしたいと思います。
1. Introduction/はじめに
2. Overview of TV7/U/2.TV7/Uの概要
2.1 Overview and Inside Structure/外観と内部構造
2.2 Test Terms/テスト項目
2.3 Base Pins and Top Terminals/ベースピンとトップ金具
2.4 Heater Voltage/ヒータ電圧
2.5 Test Condition/テスト条件
2.6 Test Preparation/テスト準備
2.7 Short between pins/電極間ショート
2.8 Emission of Rectifier/整流管のエミッション
2.9 Mutual Conductance (gm) of Amplifier Tube/増幅管のgm
2.10 Gas of Amplifier Tube/増幅管のガス
2.11 Discharge Tube and Tuning Eye/放電管や同調指示管
3. Principle of Measurement and Judgement on Good/No-good/測定原理と良否判定
3.1 Short Test/ショート・テスト
3.2 Emission Test/エミッション・テスト
3.3 Removal Value of Emission Test/エミッションの棄却値
3.4 gm Test/gmテスト
3.5 Removal Value of gm Test/gmの棄却値
4. Maintenance/メンテナンス
4.1 Check Terms/チェック項目
4.2 Calibration Terms/較正項目
4.3 Calibration Procedure/較正手順
TV7/Uシリーズは1950年代から60年代にかけて製造された米軍用簡易型チューブ・チェッカーです。機種はTV-7/U,7A/U,7B/U,7D/Uとありますが内容はほとんど同じです。近年,米国でオーバーホールされた良品が相当数輸入され,現在ではかなりポピュラーな機種となっています。チューブチェッカは機械スイッチとソケットとパネルが命ですが,軍用のため本当に頑丈にできています。簡易型のため精密測定には向きませんが,必要十分なチェック機能を有し,使いやすさ,コンパクトさ,価格の点で大変優れており,今どき民生用部品で自作するよりも購入した方が安上がりです。
主要部品を装着したパネルに弁当箱のケースが付いています。パネルの蓋の裏面にデータ・ブックが取り付けられています。パネルには各種真空管ソケットの他,ヒータ電圧切り換え,真空管電極と足ピン接続切り換え用のロータリ・スイッチとテスト用の各種プッシュ・ボタン・スイッチ,電源電圧調整用,バイアス用,シャント用の各バリオーム,それに読み取り用のメータが1個付いています。ACコードはパネルから出ており,収納時はパネルの蓋裏面に巻き付けます。
内部はスイッチと電源です。水銀蒸気整流管83によるプレート用B電源(+150Vrmsの脈流),整流管5Y3GT(5Y3WGTA)によるスクリーン用B電源(+130Vrmsまたは+56Vrmsの脈流)兼バイアス用C電源(0〜-40Vrmsの脈流)があり,また増幅管のgm測定用の信号源は商用AC電源をステップ・ダウンしただけの50/60Hz5Vrmsを利用しています(表1参照)。メータ用の増幅器は内蔵してません。また大容量のケミコンも使用してないので機械の寿命は意外と長いようです。
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Eb= 150+/-3Vrms(2.0%) Esg=130+/-3Vrms(2.3%) or Esg=56V+/-3Vrms(2.3%) |
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Eg=from 0 to -40Vrms VR=22; 3.0+/-0.2V(6.7%) VR=50; 13.4+/-1.0V(7.5%) VR=75; 25.0+/-1.4V(5.6%) VR=100;40.0+/-2.0V(5.0%) |
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(B,C range)=5.0±0.3Vrms(6.0%) (D range) =1.0±0.1Vrms(10%) (E range) =0.5±0.05Vrms(10%) |
本器は通常の受信管を対象として作られています。受信管でもテストできる球とできない球があり,それらは後述する様にもっぱらベース規格,ヒータ規格,テスト条件により決まっています。テスト機能は大きく分けると4つで,
(1)ショート・テスト,
(2)整流管のエミッション・テスト,
(3)増幅管の簡易gmテスト,ならびに
(4)電力増幅管のガス・テスト(グリッド電流テスト)
です。ただし,ガス入り放電管,ガス入り多極管,マジックアイなども(3)を応用してテストできます。受信管のうち周波数変換管(6BE6など)やFM検波管(6BN6など)は,本来,特別な回路で変換コンダクタンスなどの測定を要しますが,本器ではgm測定しかできません。また,ガス入り放電管のテストも放電の有無に限定され,放電特性のチェックはしていません。
テストできる球のベース規格は,1950年代末までに米国で出現した次の11種をテスト対象としています。UX, UY, UZ, Ut(UT), オクタル,ロクタル,エーコン管,7pinMT,9pinMT(ノーヴァル),サブMT(丸型,平型)。トップ・グリッドとトップ・プレートの端子もあります。
一方,1960年以降の新型管や欧州管には対応していません。具体的には,米国ではニューヴィスタ,ノバー,マグノーヴァル,コンパクトロン,2種のMT10ピンなど,欧州型では各種古典管(UFソケットなど),MT8ピン(リムロック)などです。これらには,アダプターを自作すればOKです。
ヒータ(フィラメント)の規格は,1950年代中頃までの球を対象としています。表2に示すように,ヒータ電圧0.6〜12.6Vの範囲は電流容量3Aで,電圧はトランス巻線の12個のタップで決まった固定値,また20V〜117Vの範囲は0.3Aで,6個のタップで決まった固定値となっています。各タップの電圧はパネル・スイッチに表示がありますが,これはトランスの出力値(中心値)に対して数%から最大+17.5%,-11.7%のズレを持っています。またトランス出力電圧の許容誤差は中心電圧に対して±4.5%〜7.8%の幅があります。
Indicate 表示 |
Center 中心 |
Error 表示誤差 |
Acceptable Error 許容誤差 |
Spec 容量 |
0.6V |
0.705V |
+17.5% |
±0.055V (7.8%) |
3A Wired 3A 巻き線 |
1.1V |
1.1 V |
0.0% |
±0.05 V (4.5%) |
|
1.5V |
1.325V |
-11.7% |
±0.075V (5.7%) |
|
2.0V |
2.0 V |
0.0% |
±0.1 V (5.0%) |
|
2.5V |
2.715V |
+ 8.6% |
±0.135V (5.0%) |
|
3.0V |
3.375V |
+12.5% |
±0.225V (6.7%) |
|
4.3V |
4.5 V |
+ 4.7% |
±0.25 V (5.6%) |
|
5.0V |
5.4 V |
+ 8.0% |
±0.25 V (4.6%) |
|
6.3V |
6.5 V |
+ 3.2% |
±0.3 V (4.8%) |
|
7.5V |
7.725V |
+ 3.0% |
±0.375V (4.9%) |
|
10V |
10.2 V |
+ 2.0% |
±0.6 V (6.0%) |
|
12.6V |
12.9 V |
+ 2.4% |
±0.6 V (4.7%) |
|
20V |
20V |
0.0% |
±1 V (5.0%) |
0.3A Wired 0.3A 巻き線 |
25V |
26.65V |
+ 6.6% |
±1.35 V (5.1%) |
|
35V |
37.1 V |
+ 6.0% |
±1.9 V (5.1%) |
|
50V |
54.25V |
+ 8.5% |
±2.75 V (5.1%) |
|
75V |
78 V |
+ 4.0% |
±4 V (5.1%) |
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117V |
122 V |
+ 4.3% |
±6 V (4.9%) |
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本器は,1950年代後半以降に開発されたトランス・レス球の規格には直接対応していません。トランス・レスTV球やラジオ球は定電流ヒータ(300mA, 600mA, 450mA系あるいは100mA系)ですから,半端な電圧値(3.15V, 4.7V, 8V, 16V, 21V, 31V, 40Vなど)のものがあり,直接対応できないものが多く含まれています。類似の電圧レンジを選べばテストはできますが,12V以上は0.3A巻線ですので,600mA系と450mA系では電圧降下が著しくなります。また(1)13.5〜19V, (2)21〜25.3V, (3)28〜35.2V, (4)39〜51.5Vの範囲はカバーできません。
本器は,ヒータ電圧だけを微調整することはできませんが,後述する様に,LINEつまみを廻して本器の電源電圧自身を調整するなどにより対応可能です。
本器は簡易型なので,球の動作条件は,整流管のエミッション効率測定の場合は,プレート電圧30Vrms/20Vrms,gm測定の場合プレート電圧150Vrms,スクリーン電圧130V/56Vrmsに限定され,グリッド・バイアス電圧は0〜-40Vrmsの範囲の固定バイアス式のみになっています。したがって,管球メーカ発表の代表特性とは大きく異なり,付属のデータ・ブック記載のテスト条件が重要になります。
データ・ブック(1962年1月版)に掲載されている球は,通常の6.3V管の場合,EIA名アルファベット順で下1桁の数字が3,4,5,6,7,8,10,11のものは6AL3,6DM4,6GM5,6GY6,6FQ7,6HS8,6B10,6BF11が最後の球です。また,同じく工業用等数字管は飛び飛びですが,7854が最後の球となっています。なお,掲載されている球のうち,6B10,6BF11などはコンパクトロンで,本器ではHickok Adapter Model 1704というのを使用することになっています。
テスト条件は品種毎に記載されており,表3の例のように,(1)ピン接続,(2)バイアス値,(3)分流抵抗値,(4)測定レンジ,(5)測定に用いる押しボタン,(6)メータの最小指示値(棄却値),(7)その他の注意事項,が指定されています。
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6.3V, ET1-5620 21,0,C,3,46 |
6.3V=Heater Voltage E=Heater Pin (Part1) T=Heater Pin (Part2) 1=Grid(G1) pin 5=Plate(P) pin 6=Screen(G2) pin 2=Chathod(K) pin 0=Surpressor (G3)pin= none 21=Bias Value 0=Shunt Register C=Measurement Range 3=Measurment Botton 46=Reject Value |
6.3V=ヒータ電圧 E=ヒータ・ピン(その1) T=ヒータ・ピン(その2) 1=グリッド(G1)ピン 5=プレート(P)ピン 6=スクリーン(G2)ピン 2=カソード(K)ピン 0=サプレッサ(G3)ピン=無し 21=バイアス値 0=シャント抵抗 C=測定レンジ 3=測定用押しボタン 46=棄却値 |
指示通りに各スイッチやバリオームを設定します。トップ・グリッドやトップ・プレートの球は,該当する電極のピン選択スイッチはゼロに設定されており,注意書きにある様に,球のキャップを付属のケーブルでパネル上のグリッド(G)かプレート(P)端子に結ぶことになっています。トップ・カソードの整流管は,カソード(K)端子が在りませんが,P端子に接続して逆振れボタン(8)を押せば,メータには負のプレート電流(すなわち,カソード電流)が指示できるようになります。
ベース・ピン接続では,例えば6AQ5は第3グリッド(以下G3と略記)がカソード(以下Kと略記)に内部接続されており,G3に該当するピンがありません。このような場合にはゼロに設定されています。直熱管はKが無いのでゼロと設定しますが,どこにも接続されてない,などと心配する必要はありません。ヒータ電圧レンジが0.6V〜12.6Vでは,フィラメント両端は100Ω可変抵抗器に繋がれ中点が接地されます。これ以上の電圧レンジでは可変抵抗器の高圧側がOPENになりますので,もしこの電圧の球があるとすれば,フィラメントは中点の50Ωを介して接地されることになります。
幾つかの例外的な球では,何本かのケーブルやバイアス用電池などの小道具が必要になります。パネル・スイッチだけではピン接続が間に合わない場合には,データ・ブック上で具体的にロクタル・ソケット上で何番ピンと何番ピンを結ぶなどと指示されています。しかし,各ソケットのピン番号は共通ですので,空いているピンならどこでもかまいません。また双4極送信管などはバイアス電源が必要なようです。
原理は(工事中)ですが,実際の判定は簡単です。3.1のショート・テストをご覧下さい。
原理は(工事中)ですが,実際の判定は簡単です。3.2のエミッション・テストをご覧下さい。
球の良否の判定はメータ指示値が棄却値以上か否かで行います。例として,6AQ5を測ってみます。テスト条件はデータ・ブックに記載されています。ショート・テストが合格したら,エミッション効率の測定やgm測定を行います。6AQ5の例では,押しボタン(3)を押すと測定の開始です。メータが60を指示したとすると,
棄却値=46 < 測定値=60
で,めでたく合格となります。
測定は短時間で済ます必要があります。近代の高gm/高電流の球は動作条件が不適当な場合があり,測定で球が壊れる危険性があります。また,データ・ブックに記載のない球は,原理的にチェックできないことになりますが,心配御無用。棄却値の物理的意味や導出原理が判れば記載されていない球もチェック可能です。これは後でその例をお目に掛けます。
原理は(工事中)ですが,実際は簡単です。
原理は(工事中)ですが,実際は簡単です。
TV-7は,ヒータ断,電極間ショートなどを探すのは得意です。ヒータ点火状態で,AC98Vを電極に掛け各電極間がテストできます。テストの感度は,100kΩ〜500kΩの間に設定されています。テストは,ロータリー・スイッチで電極を5段階に切り換え,5つのランプを別々に表示させ,オン・オフの2値コードからなる5ビットで問題の電極を特定します。5極管はヒータを入れると電極は6つになり,その組合わせは15通りありますが,本器では表4に示す12組だけ行います。測定できない組み合わせは(K-G2),(K-G3),(K-P)の3つです。これら3組もテストしたければ,カソード電極(K)をプレート電極(P)と入れ替えてやれば,完全に実施できます。
Between Electrodes/ 電極間 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
G2-G3 |
● |
● |
● |
● |
● |
G1-K |
● |
● |
● |
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● |
H-P |
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● |
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● |
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H-G1 |
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● |
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● |
H-G2 |
● |
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● |
● |
● |
P-G3 |
● |
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● |
● |
G1-G3 |
● |
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● |
G1-G2 |
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● |
● |
● |
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P-G2 |
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● |
● |
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H-G3 |
|
● |
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H-K |
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|
● |
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G1-P |
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|
● |
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整流管のテストはエミッション効率を測ります。本器では,整流管の場合プッシュ・ボタン7を押してプレートにAC35Vを印加し,また検波管の場合はプッシュ・ボタン2を押してAC18Vを印加し,その時のプレート電流を測定します。測定レンジはa(倍率x1)のみで,データ・ブックに掲載されている値をシャント用バリオーム(0〜100目盛)で球種毎に設定します。
指示値と棄却値の意味は次の通りです。メータはプレート電流Ibを適当に分流した電流ibを指示しており,もとのプレート電流に比例します。一方,整流管のプレート電流Ibは
Ib=K(Ec)3/2
where K is perbiance, Ec Plate Voltage.
という関係で表されます。ここで,Ecはプレート電圧ですが本器では一定です。Kはパービアンスと呼ばれ,電極の機械的寸法とフィラメントあるいはカソードの電子放射(エミッション)能力で決まる量です。エミッションは使用時間に応じて下がっていく傾向にあり,同時にプレート電流も減少します。1つの品種では機械的寸法は不変ですから,Ibを測ればKを測ったことになり,結局エミッションの相対値を測っていることになります。
Range-a: K~ib (Efficiency of Emission of Rectifier/整流管のエミッション効率)
シャント用バリオームはプレート負荷抵抗の一部を兼用しているので設定を変えると負荷条件も変化します。したがって,本器で測定するエミッション効率は,同一品種の球あるいは測定条件(シャント条件)が同じ球の相対比較にのみ活用できます。
増幅管のgmは,グリッド電圧の変化Δegに対するプレート電流の変化Δibの比で定義される量です。
gm=Δib/Δeg
このgmは球のエミッションと関係を持っており,エミッションが低下するとgmも低下し,余り低くなると本来の増幅機能を果たせなくなるので,球のチェックに利用されています。
測定原理は,球を動作状態にしておいてグリッドから信号を加え,その時のプレート電流の変化を測る,というものです。本器は簡易型のため,プレート電圧150V,スクリーン電圧130V(スイッチを押すと56V)は固定で,バイアス電圧のみ球種に合せて0〜-40Vの範囲をバリオームで調整できます。入力信号源はAC50/60Hzの正弦波を利用しており,振幅は測定レンジに応じて(b:5Vrms,c:5Vrms,d:1.0Vrms,e:0.5Vrms)と切り替わります。
本器の動作原理で複雑な点は,電極の供給電源がきれいな直流ではなく整流しっぱなしの脈流を用いている点です。グリッド入力電圧は50Hz/60Hzの正弦波にバイアス電圧(脈流)が重畳し,複雑な波形(Δeg;脈流)となります。プレート電源ならびにスクリーン電源も入力信号に同期した+B電圧(脈流)です。テスト・ボタン3を押すと各電極に電源が接続され,動作状態になります。この時,プレート電流波形も入力に応じて複雑な脈流となります。
入力の正弦波成分が負の半サイクル期間中の平均グリッド入力電圧をeg(-),平均プレート電流をib(-),また正の半サイクル期間中のそれぞれをeg(+),ib(+)と書けば,グリッド入力電圧の変化
Δeg=eg(-)-eg(+)
に対して,プレート電流は
Δib=ib(-)-ib(+)
と変化したことになります。メータはこのΔibを指示します。メータはフル・スケール120目盛で,10目盛=1.25mAに対応しています。また,測定レンジに応じてメータ倍率が変ります(b:X1,c:x0.5,d:1,e:x1)。したがって,gm(mA/V)は次のように求まります
Measurement Range-b: gm=Δib/40
Measurement Rangec: gm=Δib/20
Measurement Ranged: gm=Δib/8
Measurement Range-e: gm=Δib/4
本器のような簡易gm測定は,脈流を用いているので精度は最悪の場合40%程度とも言われています。脈流動作について詳しく見てみると次の通りです。
通常の直流動作では,グリッド入力電圧はDCバイアス電圧Bに信号源電圧(正弦波)Es(t)(rms)を重ねて,
eg(t)=Es(t)-B
と書けますが,脈流の場合,バイアス電圧B(t)とプレート供給電圧Ebb(t)が時間により変化しますので,グリッド入力電圧egとプレート電圧ebは
負の半サイクル;
eg(-)=0〜1.4(-B-Es)〜0,
eb(-)=0〜1.4Ebb〜0
正の半サイクル;
eg(+)=0〜1.4(-B+Es)〜0,
eb(+)=0〜1.4Ebb〜0
となります。
この間球はゼロ・バイアス領域まで大きく振られるので,これが球を痛める原因となります。また,プレート電流差を表すメータ指示値はgmと比例関係にあるはずですが,脈流動作ですと,プレート電流が本来最大になる点でプレート供給電圧がゼロになってしまうため,半サイクルの中にピークが3つできた入力より複雑な波形となります。
真空管のgmは使用とともに減少する傾向にありますがゼロにはなりません。これ以上gmが下がるとアンプやラジオが働かないという値は,真空管使用機器によりマチマチで機器に大きく依存しています。劣化の指標はgmだけでは決まらないのですが,通信関係ではgmの減少は-10%などと規定しています。しかし,民生用のTVやラジオではもっと大らかで,アナログ回路であればgmが50%であっても働く場合もあります。注意書きには,最終的な判断は使用機器でチェックするよう勧めています。本器の棄却値は,多数のサンプルの測定経験から下限値を決めたものと思われますが,球種にも依存しますが,大抵の球では新品正常球のgmの1/2〜2/3程度に設定しているようです。
では,新品正常球のgmは,データ・ブック記載のテスト条件(+B固定,バイアス指定値)ではいくらになるでしょうか?このテスト条件は各管球メーカが発表している動作条件と異なり,さらに球の規格ではgmのバラツキは±20%程度が許されます。テスト条件での新品正常球のgmを理論的に計算できるかというと,原理的には,プレート特性図など管球メーカの発表データが入手できれば可能です。(その実例は4章の応用編で紹介します)。しかし,一般的には情報入手と計算精度に問題があるので,数10%の誤差を大目に見れば,大抵の場合,メーカ発表の値そのものでも十分参考になります。
データ・ブック未掲載の球は,自分で測定条件と棄却値を定める必要があります。gmの測定精度を厳密に追う場合には,動作条件を吟味し期待されるgmを計算した後,用途に応じてgmの低下率を定めて棄却値を決定します。しかし,gmの相対比較であれば,めんどうな計算を省いて適当な動作条件でいきなり測定しても良く,幾つかのサンプルを測定すれば棄却値もだいたいこんな所だというのが経験的に判ってきます。
メンテナンス・マニュアルは各モデル共通です。記載されているチェック項目は実に多いのです。表(未完成)にそれを記しておきます。このチェック項目でパスできない場合は,問題があります。私は,数ある項目のうち,バイアス電源電圧だけは規定値内にあることを確認しましたが,他はなりゆきに任せています。例えズレを発見しても較正で直る範囲は限られているからです。本器は電源電圧がAC100Vでも動作可能なはずですが,私のセットは,ヒータ負荷が重い球の場合,AC100Vでは電源電圧調整用ボリュームを一杯に廻してもメータ(LINE)が規定のTEST(=60)位置まで振れません。しかたなくスライダック・トランスで105〜117Vにして使っています。電源周波数が50Hzだと効率が悪いのかもしれません。これで結構ちゃんと動いているようです。
TV-7/Uの較正に関する基本的な項目は下記の5つです。
1) ライン調整回路とプレート電圧;CR101(ダイオード)かR124(245k固定)の微調整
2) スクリーン電圧;R129(バイアス用VR3k)かR130(8.5kA,Bタップ付き)の微調整
3) シャント制御(R127,VR150Ω)の交換
4) メータの較正(レンジb,d,e);R113かR115(41Ω)の微調整
5) メータの較正(レンジc);R114(280Ω固定)の微調整
ネジ廻し1本でできるものは1つもありません。全て,抵抗値の微調整であり,巻線抵抗の中点金具の半田を溶かして位置を調整するか,ある値の抵抗を並列にハンダ付けするという面倒なものです。つまり,手軽に「調整」できるようにはなっていません。逆に考えれば,安定性,信頼性が高いとも言えます。しかし,新品の真空管5Y3WGTや83が手元にあるから,ちょっと交換しておこう,などと考えたらえらいことになります。
一応,念の為に解説しておきます。
(1) ライン調整回路とプレート電圧
375kΩをp-k間に接続して(3)で計測状態にし,Eb=150V±3Vになるように
LINE ADJUSTを廻す。このとき,メータはLINE TESTを指示。
小さい場合..... R124(245k固定)に並列に2〜15MΩを接続
大きい場合..... CR101(ダイオード)に並列に40K〜50kΩを接続
(2) プレート電圧,スクリーン電圧;
375kΩをg2-k間に接続して(3)で計測状態にし,Esg=130V±3Vになるように
R130(8.5kA,Bタップ付き)のAタップを微調整
(3)と(2)を同時に押して計測状態にし,Esg=56V±1.5Vになるように
R130(8.5kA,Bタップ付き)のBタップを微調整
プレート電圧Ebとスクリーン電圧Esgの差が+30V以上または+10V以下のとき
整流管83と5Y3WGTAの両方をチェック。正常な場合は
83の(1-4ピン)の配線を交換,再テスト
もし差が同じか増加したら,83をもとに戻し,5Y3WGTA(3-5ピン)の配線を交換。
もし差が同じか増加したら,5Y3WGTA(3-5ピン)をもとに戻す。
R129(バイアス用VR3k)を小さい値に交換。100Ωが1Vに相当。
(3) シャント制御(R127,VR150Ω)の交換
90目盛にしておき,6kをp-k間に挿入。(3)を押した時,0±2を表示するまで,R1
27の下側の擦動子を動かす。半田で固定。
(4)メータの較正
メータは,フルスケール200μADCを60分割して120目盛としたものを用いています。したがって最小目盛は2ですが,その半分は目測で読めます。メータの較正は,抵抗1本と外部AC電源で作る真空管等価回路を用いて行います。メータに40目盛あるいは20目盛分の電流を流したとき,その許容誤差範囲が下記のように指定されています。
レンジB;40±1/2 (=40±1目盛):±2.5%
レンジC;20±1/2 (=20±1目盛):±5%
レンジD;40±1/2 (=40±1目盛):±2.5%
レンジE;40±1/2 (=40±1目盛):±2.5%
真空管等価回路は,真空管ソケットのP-K間に抵抗10kΩを介して外部AC電源AC50Vを接続して作ります。抵抗にはIb=50Vrms/10kΩ=5.0mA流れます。この条件で計測ボタン(3)を押すと,グリッド側の信号源の大きさとは無関係に,正の半サイクルでは,B電圧は+50Vrms上昇し,電流は+5.0mAに期間率1/2サイクルを掛けた+2.5mAが流れます。負の半サイクルも同様に-50Vrms,-2.5mAとなります。したがって,正負ドライブ期間の電流差はΔIb=+2.5-(-2.5)=+5.0mAとなります。メータはこの電流を指示します。
ちなみに,40目盛の実電流は66.6μA,20目盛では33.3μAですから,メータの倍率はb,d,eレンジで75倍,cレンジで150倍。TV7/Uでは回路抵抗41Ωが本流で,メータ回路は41Ω+109Ωx2+メータ内部抵抗となります。内部抵抗は約2.8kΩとわかります。
実際の較正は,上記の41Ωの微調整です。
(5)Cレンジの較正
cレンジだけは,感度を半分にするための抵抗280Ωがあり,これの微調整を行います。Bレンジを100とした時にCレンジの指示は50+/-0.5とあり,誤差は1%以内の規定がありますが,後に測定データを整理したところ,私の機械では5%の誤差があることが判りました。