ANTIQUE JAPANESE RADIO/日本の古いラジオ

written by Koji HAYASHI, Ibaraki JAPAN

Technical Report on Tube Tester TV7/U/真空管試験器の技術報告

Basic/基本
Application/応用
Suppliment Data/追補データ
Appendix/付録

Tube Checker TV7/U/真空管チェッカーTV7/U


PART 3 Appendix: Reactivation of Tube / 付録: 真空管の再生

2nd edition (2007.1.27)

TV7U/TV7UAx.html

エミッション測定やgm測定では棄却値以下だからといって捨ててはいけません。特にST管のような古典管では棄却値以下のエミ減球であっても,「再枯化(再エージング)」により救える場合があります。本付録では,真空管の基礎知識とともに再エージングによる再生技術をお話しましょう。

 

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Contents/目次
真空管の再生

A.1真空管の基礎

1. 酸化物陰極

2. ゲッタ材料

3. エージング

4. 再エージング

A.2古典管の再エージング

A.3近代管の再エージング

A.4近代的な再エージング

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A1.真空管の基礎

1. Oxide Cathode/酸化物陰極

 陰極材料は,真空管が発明された頃は電球と同じタングステンが使用されていましたが,1913年には熱電子放出が数桁優れたトリウム・タングステン(英語をそのまま音訳したトリエーテッド・タングステンも同じ)が誕生し,さらに数桁優れた酸化物陰極が1904年頃にドイツで生まれ第1次大戦中(1914〜1918年頃)に米国で実用化されたそうです。それ以降,受信管には直熱型や傍熱型の区別なく最後まで酸化物陰極が用いられました。一般の民生用受信管の酸化物陰極は,直熱型ではタングステン線などに,また傍熱型ではニッケル・スリーブにバリウム系の酸化物を被覆したものです。この被覆は,電極組み立て時には予め炭酸塩の形で塗布しておき,排気中に約1,000℃の加熱で分解して酸化物に変えてできあがります。

 第1世代は主に酸化バリウムが使われました。初期の頃は酸化バリウムを陰極スリーブに空気中で直接塗り付けたそうですが,空気中では不安定で取り扱いが難しかったので,後に炭酸塩の形で塗布し,排気中に加熱し酸化物にする方法に変りました。

第2世代はバリウムにストロンチウムを(等量に)混合した2元酸化物で,エミッションがさらに向上しました。国内では1930年頃(昭和5年頃)に製造が始り,戦後まで使用されました。

さらに,第3世代はバリウム・ストロンチウム・カルシウム(混合比50:40:10)の3元酸化物で,1949年〜1951年頃には技術が確立し,国内でもその頃から順次置き換えられました。

第4世代は,カソード・スリーブなどのベース・メタルの改良で中間層生成を防止し長寿命化が図られました。この種の技術を国内各社が独自に確立し発展を見せたのは1950年代後半のことです。

こうして見ると,国内受信管では,戦前から戦後の1951年頃までのラジオ管は第2世代,1951年から1950年代末のラジオ用ST管,MT管やGT管は,豊富なエミッションを得るように改良した第3世代,さらに1960年以降の第4世代の近代管は寿命対策を施した球であることが判ります。

 陰極材料だけを見ると近代管ほど良くできているように見えますが,エミッションや寿命の点はそれだけでは決まりません。酸化物陰極材料の寿命は通常の使用で10万時間以上と言われていますが,動作温度は800℃前後が想定されています。良いはずの近代管でもTVセットなどでは数年から5,6年も使うとエミ減になり,管壁も黒くなったり,銀色や茶色になることを経験しています。旧式の陰極材料を用いた古典管は主にST管で,大きなガラス空間が確保され,低温動作しているのに対して,近代管は小型MT管や熱出力密度の高い大型の水平偏向管に代表され,管壁温度が高く電極は常に高温にさらされています。また,管内空間も狭いのでガス発生には不利となります。したがって,陰極材料が改良されていても,使用条件が悪化しているので,一概にどちらが良いとも言えません。

 陰極の不活性化(エミ減)は,再エージングにより再生する可能性があります。特に,第1世代から第3世代までのラジオ用小型ST管,第2〜第3世代の小型GT管,MT管などでは,ゲッタの性能が悪く陰極がとことん傷む前にエミ減になるので,再エージングの効果は大です。しかし,第3〜第4世代の高熱出力密度のMT管や大型管では,民生用機器内部の苛酷な熱条件下で極限まで働かされた場合には,エミッションの中心物質であるバリウムは早く蒸発してしまい,陰極に残っているのはストロンチウムやカルシウムだけとなります。この様な状態になってしまった球は活性化を施しても生き返りません。やっかいなことにこの頃の球はゲッタも進歩したため外観上ほとんどガラス面に汚れも現れず,陰極の状態を推定することができません。

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2. Material of Getter/ゲッタ材料

 ゲッタ材料にも世代交代がありました。第1世代はマグネシウムで,ハード・ヴァルブの誕生から我が国では戦後しばらくまで使われました。マグネシウム・リボンをニッケル皿に取り付け,排気後に高周波加熱して分散させたもので,フラッシング・ゲッタとも呼びます。このマグネシウム・ゲッタは,蒸気圧が高いという欠点の他に,ゲッタ作用は蒸発ガス状態の時にのみ発揮し,管壁に付着している時はほとんど働かないという特徴があります。したがって,球の外側からゲッタ面を火であぶれば活性化が期待できます。

第2世代は戦後登場したバリウム合金です。バリウムはマグネシウムに比べて吸着力に優れ,また管壁に付着したままゲッタ作用があります(接触ゲッタ)。このゲッタは戦前から知られていましたが,如何にうまく希望の場所(管壁)に飛ばして,しかも接触面積を多くする(でこぼこしている程良い)かという技術上の困難があり,戦後に使用法が確立し1946〜49年頃に米国でKICゲッタとして発売されました。空気中ではバリウムは酸素と結合してしまうため,まず棒状の管にバリウム・アルミ合金を詰めた後,ニッケル線で弧状に(形状は角型,馬蹄型,リング型など)取り付け,管の側面を削り落とした後に高周波加熱してフラッシュさせるものでした。国内では,1950年頃からJRCが国内各社に供給し,その頃国産化の始ったMT管には全面的に採用され,また,ST管もこれに切り換えられました。このゲッタにより,球の寿命は飛躍的に向上しましたが,製造上は従来より100℃高い1,100℃の加熱を要し,加熱不足はフラッシュが十分でない,加熱しずぎはマイカ板の脱水剥離などを引き起こし真空度低下の原因となりました。

第3世代のゲッタは,同じバリウム・アルミ合金ゲッタの一種ですが,ニッケル粉を混ぜており,高周波加熱以外に自ら発熱しフラッシュ温度を上げるように改良したものです。その形状はドーナツ型(リング型)で,ゲッタ材料がリングの全てに詰められているので,フラッシュの指向性が良く近接した電極への付着が防止できるという利点もありました。国内では1961年に全面採用されました。

 真空管のゲッタの種類はゲッタ・リングや鏡面の色から区別できます。第1世代のマグネシウム・ゲッタは国産管では皿の上に網が張ってあり,ガラス表面は銀色の鏡面に若干青色が帯びているように見えます。第2世代のバリウム・ゲッタは国産ではゲッタの詰まったやや太い棒を1辺をとし,これにコの字形の支持枠を付けて角型(私はそう呼んでいる)としたものが多く用いられました。(でも名称はリング・ゲッタということが多いようです)。ガラス面は銀色の鏡面だけです。第3世代はゲッタがリング状になっています(登場時にはドーナツ・ゲッタと紹介されている)ので,すぐにそれと分かります。

ゲッタの活性化には火あぶりが有効ですが,ろうそくやライターで可能なのは第1世代の球止まりで,第2,第3世代の球は高温を要するため容易ではありません。

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3. Aging/エージング

 真空管のエージングとは,真空管製造後にヒータあるいはフィラメントを一定期間加熱し,時には電極に動作時の電圧を加えて慣らし運転することです。

酸化物陰極は,組み立て前は炭酸塩の状態でスリーブに塗布されており,排気中に加熱分解し酸化物に変わりますが,この状態では十分なエミッションが得られません。そこで,排気後に活性化を施します。これは,封止後に陰極を約1,000℃,数10分加熱する工程で,酸化物の結晶構造が変化し電子放出が増大,安定します。この時,電極に電圧を掛けてプレート電流を流すことにより,材料中のガス放出とゲッタによる吸着などが行われ,真空度の向上・安定化がはかられます。これら,封止後の作業がエージングなのです。エージング工程の詳細は,球種や製造会社により異なり一般にはほとんど公表されていませんが,HYTRONの50L6やWEの300Bの例が僅かに知られています。

表A.1(a) Hytron 50L6GTのエージング・スケジュール

STEP

Minutes

Eh (AC)

Ehk (AC)

H-K間は電球10W120Vを繋ぐ

Ecc(DC)

Egに電球7.5W120Vを繋ぐ

Ebb(DC)

Eb=Esgに電球40W120Vを繋ぐ

備考

1

5

50

110

0

0

H-Kショートの発見

2

3

70

110

0

0

エミッション安定化の開始

3

5

80

110

0

0

H-Kリークの枯化と焼き付け止め?

4

3

80

110

0

0

H-Kリーク除去

5

5

70

0

120

120

電極G,SG,Pのガス除去

6

4

0

0

0

0

冷却

7

5

50

0

-10

120

試験のため予熱

(出典)Hytron Radio and Electronic Corp.の広告,Proceedings of the I.R.E. and Waves and Electronics, January, 1947.

 

表A.1(b) Western Electric 300Bのエージング・スケジュール

Cycle

Time

Ef(V)

Ep(V)

Ec(V)

Ib(mA)

1

1h

7.0

300

-5

250

2

1h

6.0

300

-5

250

3

5h

5.0

300

-60

60

4

24h

5.0

-?-

-?-

-?-

(出典)秋山和道,Lux corporation,ラジオ技術誌1984年5月,カラー・オフセットの写真(工場内の写真)より。Cycle4はLUXのアンプMB-300用の球に特別に設けられたもので,24時間のエージングとあるが,詳細不明。

最近,大塚久氏が,WEの元技術者,B.Magers氏の"75 Years of Western Electric Tube Manufacturing", AES, 1992, を引用して,Cycle1-3について同様のデータを紹介している(MJ98.2と300Bパワーアンプ傑作集MJ98.1)が,秋山氏のデータはそれより8年前に紹介され,しかもMagers氏に無いEcのデータもある点で,実に貴重である。

また,近代管のエージングに関して面白い話があります。近代TV球には同一品種でヒータ電流の異なるファミリーが多くありますが,ヒータは同じ電力を与えても低電圧になる程発熱効率が悪くなります。欧州系は低電圧管ほどヒータ電力を増やす方向で規格を決めていますが,米国系は同一電力にしてエージングの方法を変えてエミッションを調整していたそうです。

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4. 再エージング

 一方,寿命が尽きたと思われる球や未使用だがエミッションが悪い球に活を入れ,生き返らせる方法に,再エージングがあります。これは真空管ユーザが勝手に行うもので,明確な定義がある訳ではありません。真空管は電子工学の産物のように思われかちですが,酸化物陰極の製造,ゲッタによる清掃,エージング工程を見る限り,多くの化学変化を巧みに利用して作った化学工業の申し子であることに気付きます。酸化物陰極の活性化やゲッタ清掃は非可逆反応であり,エミッションを失ったからといって陰極の結晶構造が元にもどった訳ではなく,またガスを吸収したゲッタは失われてしまいます。しかし,この種の球に再びエージングを施すと,酸化物陰極の結晶構造を再び活性化させ,また余剰のゲッタを再利用することは可能です。

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A2 古典管の再エージング

 棄却値以下のエミ減球であっても,「再枯化(再エージング)」により救える場合があります。古典管の場合,救える球の特徴は次の通りです。

(1) ガラス面のゲッタ鏡面が輝いていること。

(2) ジュメット線が黒くなっていない(銅あるいはやや赤い色が正常)

(3) カソードやフィラメントの禿や粉落ちがない

(4) ガラス内面が蒸発物で金属が凝結してない,黒化してない(透明)

つまり,真空もれが無く,酸化物材料の禿落ちが無く,電極材料の蒸発が無いのが理想ですが,(3),(4)はある程度ゆるされます。逆に,全くの新品同様の外観でエミ減という球は機械的なトラブル(断線など)が予想され,復活は絶望的です。

 再エージングは次の手順で行います。

(1)ゲッタの活性化:ゲッタ面を火であぶる(はじめは徐々加熱,次第に強火で),

 火あぶりは,ガラス接合部を持たない古典的なST管は問題ないと思いますが,急速な加熱はガラスにクラックを生じさせ,また加熱しすぎはガラスの内部への吸込みが起き一貫の終わりになると言われています。この工程ではゲッタが蒸発するとまだらになり見栄えが悪くなります。ST管ではベークライト製のベースを加熱しないよう,上手にやる必要があります。私はまだこの技術を修得していません。

(2)カソード活性化兼グリッド焼:ヒータ電圧を規定の150%〜170%に上げて,30秒程加熱

 ヒータ電圧を上げると,陰極温度は900゜Kから1200゜K位に上がります。これにより,陰極酸化物の組成がエミッションの出やすい構造になるそうです。また,グリッドに付着した物質を再蒸発させる効果もあります。しかし,エミ源球により陰極の状態はマチマチですし,また私たちが化学反応を制御するパラメータはヒータ電圧と印加時間のみですので,その結果は行き当たりバッタリといったところでしょう。やりすぎると,陰極物質の蒸発が加速して,エミ源の加速やグリッドへの再蒸着が起ります。

(3)慣らし運転:全電極に規定の電圧をかけて動作状態にする

 エミッションを高めただけでは陰極酸化物の組成は不安定なので,これを安定にするために慣らし運転します。

*****

さて,実際には私は,めんどうな(1)の火あぶりを飛び越して(2)の活性化兼グリッド焼だけ実施してみます。昔のラジオセットの中で「自然に」エミ減になったST管などは,結構棄却値以上に回復し生き返るものがあります。結果は表A2をご覧下さい。

表A2. 古典管の活性化兼グリッド焼きの効果(林 光二の実験記録)

管名

条件

元の値vs棄却値,

その他の症状

1回目

2回目

KX-80BK 松下 OSJ (1951)

Eh=7.5V,30s

em=17<40

em=38<40

em=41>40

不十分だが改善

6A7 双葉(1955-)

バイアス浅くしgm=28に合わせる,30s

gm=22<29

g2-g3;short

gm=28~32>=29

g2-g3;shortランプ薄れる

不十分だが改善

UX-12A マツダ刻印,放マーク(1940?)

gm=38<42,

 

gm=41<42

ガス=+2,(54-56)

gm=47>42

ガス=+17(59/76)

gm改善したがガス増加した

6Z-DH3A 松下PG (1954年)

12.6V,30s

(2極,3極)16,20<19,20

17,26 (<19,>20)

2極部はやや改善

3極部は合格

6Z-DH3A マツダ TYPE-2(1950-)

12.6V,30s

(2極,3極)12,18<19,20

16,21(<19,>20)

2極部はやや改善

3極部は合格

UZ-6D6 Horizon,1級02 (1950年)

12.6V,30s

gm=32<40

gm=20<40

*失敗例

火炙りでgm=34-32,現在22

*失敗例

 

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A3.近代管の再エージング

 近代管は一旦エミ減になるとまず再エージングによる復活は期待できませんが,やらないよりはましと,試みることにしています。特に,蒸発物で電極ショート状態になった球は,改善できる可能性があります。

(1)近代エミ減球の外観的な特徴

エミ減球の外観的特徴は,古典管のケースと共通点が多いのですが,幾つかの相違もあります。

(1)のゲッタ面に関しては,エミ減球でも綺麗に残っているケースが多く,薄く透けて見えるケースは真空もれでない限り動作中にゲッタの消耗が大きかっただけ,また紫色や茶色に変色したものは動作中に蒸発物により変色したもの,あるいは製造初期からそのような色をするものがあり,球はまだ生きています。

一方,(4)のガラス内面の汚れについては,近代初期の球(1950年代)は,使用が進むとベース部が茶化あるいは黒化します。ベース下部などの管壁が銀色になった球は蒸発物が冷たい部分に凝結したもので,特にTVセット内部などの高温下で動作したケースが多いのですが,中には豊富なエミッションを持つものもあり,この特徴だけでは一概にダメとは言い切れません。新品球ではゲッタ・フラッシュに失敗して?ベース部まで銀色になっているケースもあります。これらは,ライタであぶると膜が蒸発するので区別が付きます。蒸発物で金属色化した球はショート・テストにかかるケースが多いようですが,後にベース部やマイカ部にマグネシアを塗布したものではこれも改善されてしまいました。

 近代管でも1960年代中頃以降に製造された球は,蒸発物質による汚れは余り目立たず,管壁がうっすらと茶色味かかる,あるいは,プレートの小窓のガラス面が一部黒化しているだけで,エミ減のケースもあります。

また,外観上全く新品同様なのに,全くエミッションの無い球も見受けられます。このような球は事故球で,大電流管などでは熱暴走によりグリッドの溶融やリード線の断線を起こしたものと推定されます。外観だけではまず判断できません。

(2)再エージングの手順

手順は古典管と同じですが,(1)の火あぶりによるゲッタの活性化は古典管と事情が異なります。近代ゲッタは接触ゲッタですから,加熱はゲッタ膜を蒸発させることが目的ではなく,表面のでこぼこの具合を変えることに意義があります。一応,綺麗な輝きを見せていれば機能していると考えられ,火あぶりは避けた方が無難です。

ただし,ガス・テストを通過できなかったエミ減球には,何とかゲッタの働きを高めてガスを吸着させる必要がありましょう。蒸発温度は1,100℃と古典管より100度高いので加熱は難しく,加熱し過ぎはマイカ板からのガス放出を誘導してしまいます。さらに,MT管や近代の大型管では材質の違うガラスをベース部に用いているため急速な加熱でクラックが入る危険もあります。私は1本割った経験があります。

 再エージングは(1)を止めて(2)のヒータ加熱を行うのが最も手軽ですが,実際には,これだけでは近代管を回復させるのは難しいようです。前に述べたように,本器の増幅管のgmの棄却値は正常球の約1/2に設定され,また整流管のエミッション効率は2/3に設定されています。ヒータ加熱の効果が認められるのは,この棄却値を大幅に下回るダメ球で,棄却値付近にまで回復するケースがあります。しかし,それ以上には改善してくれません。

(3)やや改善の例

 小型管6C4(6.3V,0.15A)は劇的に改善しました。小型なので十分加熱できたのと,国産の1950年代の球だったので陰極材料が古典的ST管と同じだったかもしれません。

(4)失敗例

 中型管の6R-A9(6.3V,0.6A)では苦労しました。やや回復傾向を見せますが安定性に欠けます。大型管の31JS6A(31V,0.45A=14W)は加熱により外壁は相当熱くなりますが,カソード面積が広いためか?陰極温度は高くならないように思えます。

 一方,棄却値付近あるいはそれ以上のややエミ減の傾向を持つ球の場合,ヒータ加熱はかえって逆効果で,エミッションが減少してしまう事を経験しました。6G-B8(6.3V,1.5A)など。陰極を高温化するとガスが発生し,管内の空間が狭い近代管はこの影響をもろに受けます。ところが,ガス・テストを実施しても針は増加しません。VT7/Uのガス・テストはグリッド・リークを測るものですから,電離ガス以外は測定できないのです。もし,H2OやCO2などが管内に貯り過ぎると真空度が低下し,プレート電流は流れなくなります。このケースこそ,(1)のゲッタ再加熱が有効なのでしょう。(3)の連続通電はガスの吸着にも有効ですが,本器ではボタンを押し続ける忍耐が必要で,問題外です。

表A3. 近代管の活性化兼グリッド焼きの効果(林 光二の実験記録)

管名

条件

元の値vs棄却値

1回

2回

3回

4回

5回

6C4 マツダ角ゲッタ(1950年代)

12.6V,30s

20-22...28-24 <55 徐々に上がる傾向

65-58 <55

53-49 <55

56-51-57 <55

60-58 >55

63-64-65 >55

ガスなし

著しい改善

6R-A9 東芝(1960年代中頃)(その1)

12.6V,30s

22<40

40-30 <40

34<40

40=40

30<40

時間とともに下がる*

(その2)

12.6V,30s

20-19<40

45-

50

38-36

時間とともに下がる*

31JS6A 東芝緑帯(1960年代末)(その1)

75V,

30s

8<34

g1-g2ショート

叩く

29.5 <34

ガスない

電極ショートがなおらない

(その2)

6-14 <34

14

18

20

21

ガスない?...回復が遅い

6G-B8 東芝緑帯(1960年初頭)

記録なし

記憶にあるだけ

(注意)gmの値でx - yのようにハイフンで結んでいるものは,状態が定常でなく,時間の経過とともに値が変化するものを表している。

*印のものは,回復を見せていても,冷却期間を置くと,値が下がってしまうものを示す。

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A4.近代的な再エージング

 排気後のエージングあるいは不活性になった陰極の回復法に,高圧パルス電圧(14kV程度)をプレートに周期的に印加して陰極に瞬時に大電流を流す方法があります。これは,国内で1950年代に研究された方法で,エージング時間を短縮できるメリットの他に,エミ源球の回復にも効果があると報告されています。装置は整流管の他に水銀入り制御格子3極管を2本用いたもので製作は比較的容易だと思われますが,私たちが最も興味のあるエミッションの回復に限って言えば,その効果は最大が新品の50〜60%程度と報告されていますので,こんなことならヒータ加熱による安直な方法でも良い訳です。

 TV7/Uでは高圧パルスを発生,周期的に印加することはできませんが,エミ減球の測定を数秒間隔で繰り返す(測定ボタンを繰り返し押す)と指示値が徐々に上がって行くことが,良くあります。これは,一種のパルス電流を繰り返し与えたことに相当し,同様の効果が期待できそうです。ただし,ボタンを何回も押す肉体労働があり,また貴重なチューブ・チェッカーを壊すかもしれません。

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