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3. Audio Tubes for Console Set and Commercial Use/電蓄用と業務用のオーデイオ管 | |||||
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電蓄とは電気蓄音機の略称で,それまであった蓄音機(ゼンマイ式回転皿と機械仕掛けのピックアップとラッパを備えたレコード・プレイヤー)に代わって,電気モータ,電磁式ピックアップと電気信号の増幅器にスピーカを付けたものです。一般にラジオ付きが普通でした。日本では1928年(昭和3年)に米国製の輸入品がデビューしたのが始まりのようです。
この頃の真空管といえば,米国では1926年に直流用出力管UX-171Aが発表されましたが,1927年には交流用の検波管,増幅管,それに整流管UX-280が続々と発表されるに及んで交流時代を迎えました。翌年1928年には大出力管UX-250(Westinghouse/RCA)や水銀整流管281が発表されました。1929年には245(Westinghouse/RCA)も発表されました。その意味で,この時代に早くも十分な材料が揃っていた訳です。
一方,映画館や劇場用拡声器にも大型のアンプが使われるようになりました。トーキー(音付き映画)用の音声信号は,1926年の米国Western Electricのバイタフォンシステムではレコード盤録音で,この再生装置はまさに電蓄と同じ原理だった訳です。違う点はスピーカがより大型で高能率,しかも増幅器やレコード・プレイヤーとは別の箱に入った別置き形,セパレート方式だったことでしょう。また米国GE/RCAは1927年にフィルムに光学的な音響信号を載せて再生するトーキー・システムで対抗しました。我が国でも両システムが入ってきましたので,劇場用システムにはWE系の他にRCA系の業務管250系が使われることも多かったようです。
UX-171Aは,米国RCAが1926年に発表した直熱型3極出力管で,UX-112Aの低増幅率版(mu3)です。米国のWH(Westing House)が1925年に開発しRCAが1926年に発表したUX-171の改良形で,フィラメントはトリエーテッドタングステンから酸化物塗布形に変更してエミッションを増大するとともにフィラメント電力を(5V/0.5Aから5V/0.25Aに)低減し能率を向上させたものです。管名の末尾にAが付きます。出力はUX-112AとUX-210の中間を狙ったもので,0.7Wが得られます。(Tyne1977, Stokes1982, 大塚1994)
UX-171Aは日本ではUX-112Aよりやや遅れて,1929年(昭和4年)*に東京電気/マツダが,KX-112A, KX-280と同時に発売しました。その頃,これより大きな出力が得られるUX-202A(GEが開発したUX-210相当, mu8.0, シングルでEb425V時1.5W)もマツダから販売されています。(*池谷理氏の受信管物語の中の東京電気の広告。梅田徳太郎氏の受信管製造の記録にはUX-171Aの記述は無く,またKX-280の開発は翌年の1930年になっている)
1932年3月,サイモトロンは卸2.00円(UX-112Aの丁度2倍),エレバム卸1.05円。ケーオー0.95円,ドン0.98円,キングトロン0.86円,NVV真空管0.98円。
UX-171Aは今日では可愛らしい出力の球なのですが,まがりなりにも出力管に数えら(シングルでEb180V時0.79W),今日でもオーデイオ・ファンにはそのST管が良く知られています。実は出力,内部抵抗ともに6L6の3極接続と同程度で,感度が悪い代わりに直線性は6L6よりも優れている,といえばその実力が分かるでしょう。
国産管はほとんど生き残っていないとみえ,現れると大変高価ですので,ここでお見せするサンプルはともに米国製のみです。
(1) Cunningham CX371-A and RCA Radiotron UX171-A
UX-171A RCA (刻)Radiotron 底=Licensed..,Releaf=(RCA),真鍮ピン 頭ロゴ, 紙Corolado tested, 二重円リブプレート, ガラスピラー6p, ゲッタ幕大ゲッタ炙り痕(54-58)gas=4
○UX-171A 刻(RCA) Radiotron bot=Licensed.., 頭ロゴ, 二重円リブプレート, ガラスピラー6p, ゲッタ幕極大,ゲッタ炙り痕/ (63)>good
△UX-171A 刻(RCA) Radiotron bot=Licensed..., ステム3 D, 頭ロゴ, 二重円リブプレート, ガラスピラー6p, ゲッタ幕半分///(46)
(2) Cunningham CX371-A, Philco type 71A and Van-Dyke 71A
△CX-371A 刻Cunningham bot=Licensed..(CX-371-A), 頭ロゴ, 二重円リブプレート, ステム12 D, ガラスピラー6p, ゲッタ幕大ゲッタ小/ (51)
△type 71A Philco (刻菱形 Philco type 71A made in USA, M1)(bot=Licensed..) ガラスピラー6p, 3リブプレート,ゲッタ炙り痕)/ (50)
△71A (刻)Van Dyke 71A (Base底何もなし, 三角マイカ, 3リブプレート, 皿ゲッタ(46)
国産管の生き残りです。
UX-245は,米国のWH(Westing House)が開発しRCAが1928年に発表したオーデイオ用の直熱型3極出力管。そのST版45はRCAから1931年頃には発表されたようです。UX-245は国内では東京電気(TEC/Cymotron)が1930年に国産化,当時の価格は3円50銭だったそうです。KX-280は同じ年に国産化されました。そのST版UX-45は1934-35年頃のようです。1935-36年頃にはドン真空管から改良版のUX-超45も発表されました。
UX-245は東京電気が1931年頃国産化,定価3.80円,1932年3月,サイモトロンは卸2.40円,エレバム卸1.90円。1932年9月卸,マツダ2.31円,エレバム1.82円。ケーオー1.60円,ドン1.55円。キングトロン1.60円,NVV真空管1.60円,安永チューリップ1.25円。1932年頃にはかなり一般的になり,各社が製造するとともに電蓄に使用されたようです。
250は米国RCA/WestingHouseが1927-28年に開発,シングルで4.6W, プッシュプルで15Wと脅威的な大出力が得られ,劇場や建物の拡声器などの業務用アンプに使われた。浅野勇氏(魅惑の真空管アンプ, 誠文堂新光社, 1972)によると,250の原型はGEが1922年に開発した高増幅率の送信管UX-210/UV-202Aで,前年の1921年に開発されたUV-202の系譜です。210系はC球で15Wの出力が得られるのですが,A級動作では電流が流れません。内部抵抗を低くして十分なプレート電流が流れるように改良した球とのこと。250は210系の変調器としての用途も考慮されてか同一のフィラメント電圧,+B電圧が採用されたようです。
7.5V, 1.25A, 450V, -84V, 55mA, 1.8k, mu3.8, 2.1mA/V, RL4.35k, Po4.6W
ガラス容器は当初ナス型のS-21だったが,1933年にST-19に置き換えられ50となった。
我が国では東京電気がサイモトロン時代の1930年(昭和5年)にUX-250として国産化,同時に整流管のKX-281も作られている。1932年にマツダとなる。我が国ではST版50は作られずに終わったらしい。UX-250の価格であるが,東京電気マツダは1933年に7.5円,1935年に9.1円,同年同社のUX-2A3は6.5円。エレバムなど(東京ラジオ卸商連盟)協定卸値段では1935年に8円と最も高価,1937年でも8円で2A3の4.2円に比べ約2倍,1939年には8.8円になった。
UX-250は今日のオーデイオマニアのように家庭の電蓄で個人的に楽しむような真空管ではなかった。1930年代は,米国では劇場用のアンプはWestern Electricが90%以上のシェアを持っており,米国RCAが巻き返しを図って食い込んでいたが,我が国ではトーキー用のアンプはWEやRCAの輸入装置は高価過ぎ,多くの劇場は国産装置を用いた。250はそこに活躍したのではないかと思われる。
しかし,1933年にUX-2A3が登場すると,近代2A3は使いやすく出力もppで15Wと遜色なかったこと,またPAアンプではB級の46ppは出力も20Wとより大きく経済的で,1935年頃には250は次第に敬遠され,PAアンプの主流は旧来の245/45ppの他,近代3極管2A3pp,5極管2A5pp,B級管246/46ppに移行した。250はその後1939年にも一部の放声装置(PAアンプ, 例えばPRMエルマン強力放声装置, M.C.582型178円)には用いられていたが,もはや主流ではなかった。その頃250は旧式の劇場用の保守管として製造され続けたようである。しかし,浅野勇氏によると,「戦時中でも軍用としてオーデイオ管やレギュレータ管として使われた」とある。これは米軍のことだったのか?
From Left, Tokyo Electric (Toshiba) Matsuda UX-250 (Base Bottom releaf, in 1933-1935?), Matsuda UX-250 (Base Bottom print T mark, in 1937?) and Maker Unknown 250. [0j7]
左マツダUX-250(ベース刻印,底にレリーフ)は昭和8年から10年頃,中マツダUX-250(刻印,ベース底に戦時特別税のTマーク)は昭和12年頃。ともにプレートは平角形,右メーカ不明は角が丸い平型プレート。ゲッタはともに板にメッシュを貼り付けた型式。ともに京都府の辻野 泰忠さん寄贈。
280は米国RCAが1927年に発表した直熱双2極管です。米国ではそのころ,放送用ラジオ受信機に整流管として登場し,171Aとともに使われた。RCAはUX280という名称だった。1932年頃に名称は2桁の80となり,1933年に電極支持を堅固にするためガラス管形状を変更しST管とした。その後,1936年にSTガラスのままベースをオクタル版とした5Y3-Gが米国で誕生し,また,ベースの異なる5Y4Gもマイナーではあるが作られた。
国内では東京電気(TEC-サイモトロン)がKX-280として,1930年(昭和5年)*にUX-245とともに国産化。「高効率の高真空両波整流管であって,一般家庭用大型受信機の整流管として好適のものである」。しかし,我が国ではこんな大きな整流管は電蓄以外誰も使いませんでした。これがラジオに使われるようになったのは出力管にUY-247やUZ-2A5を使うようになった1932年頃からで,ナナオラ95型などがその始まりでしょうか。東京電気のKX-280のST化は遅れて1935年頃にKX-80となった。だから,1935年頃の初期のST管式ラジオには良くナス管のKX-280が見られた。
*KX-280の東京電気の発売は池谷理氏の受信管物語の中の東京電気の広告は1929年4月である。にもかかわらず,梅田徳太郎の受信管の製造の記録には国産化は1930年と記されている。池谷理氏の受信管物語りによると,製造が間に合わない品種はRCAから輸入したもののベースを取り替えて販売した,KX-280までそのようなことをした旨記されている。
1931年4月のサイモトロンの定価3.80円,同8月3.50円,1932年2.50円,1932年3月,サイモトロンは卸2.00円,エレバム記載なしでした。1932年9月卸,マツダ1.93円,エレバム1.42円。ドン1.55円,キングトロン1.58円,NVV真空管1.55円。K.O.トロン1.50円。1933年7月卸,マツダ1.925円,エレバムが1.36円,1935年1月の卸,マツダKX-280,KX-80とも1.63円。エレバムKX-80は1.20円。K.O.Tronは1.62円。DON1.15円。
Data |
Base |
Out-line |
Ef/If |
Ein ac RMS |
Iout dc |
KX-80 RG-10060 in 1935.4.30 |
1:p, 2:p, 3:f, 4:f |
ST-50 D=50 mm, L=132 mm |
5.0V/2.0A |
350 V x2 (Cin) 400 V x2 (Cin) 550 V x2 (CH in) |
120 mA 110 mA max 130 mA max |
国産のKX-280は入手難でサンプルはありません。代わりに米国280を紹介します。以下に紹介する3本はグロー放電が観察できる真空不良球で,ゲッタの灯炙りにより事態を改善できる可能性もあり研究用として,神奈川県の加藤氏より御寄贈いただいたサンプル球です。
RCA UX280
日本なら名称はKX-280だが。ベースには刻印,ステムには数字の51の裏文字。管面にはA.E.Co St. Joseph Movの紙片。管内には少し白い粉(陰極コーテイング物質)が落ちている。
管頂にRCAのロゴ,2つのプレートが左右に,その間にガラス・ピローが見える。写真下は暗くて良く見えないが,角板型のゲッタがある。各プレートはステムからの支持棒で自立,上部はピローからの腕木で留められている。フィラメントは逆V型のリボン。フィラメント上端はピローから延びた針金で吊られている。フィラメント下端の1つはステムから延びた支柱を介してベース・ピンに接続され,もう1つは空中を横切るリード線で他のユニットのフィラメントに接続されている。このリード線の中央部分はピローの支持支柱に溶接されている。
この構造は当時の標準らしいが機械的には弱い。電極組立時にフィラメントをプレート中心に正確に釣るのも難しいが,この形状を長年維持するのも難しい。ガラス・ピローは1点支持だから回転しやすい。振動や機械的ショックで,電極タッチが起こり易い。
Caution -Grow, Large Current!/実は,このサンプルはマジック・インキで「グロー,危険大電流注意」とあった。[YeH]
VT7/Uでテストしてみると,ユニット1はem=46 >40,うん,寿命に近いが悪くない。グローは見えず。ユニット2はem=0。あれ?調べてみると,プレートとフィラメントが下部でタッチ。球を叩いてみたら,まずフィラメントの陰極材の剥離(粉落ち)が目立つ。なお叩くとタッチが解消した。やれやれと思ったら,上の釣りのバネがピローの支柱側で折れて,そのバネがフィラメント側に残ったままぶらぶら。どうやっても上部で短絡する姿勢しか取れない。一巻の終わり。
Cunningham CX380
次はCunninghamのCX380。ベースには刻印,ロゴと社名と管名。管面にはメモ書きの紙片。ベースにも紙片,1925-1929, Cleveland, works #30 とある。管内には少し白い粉(陰極コーテイング物質)が落ちている。
RCAと同じ作り。
このサンプルはマジック・インキで「グロー」とあった。VT7/Uでテストしてみると,Unit-1はem=27<40,Unit-2はem=32<40。やはりエミ減。さて,管内を覗いてみると,紫色の弱いグロー放電がプレート内部に出ている。フィラメントは赤いのだが,写真では水色に映っている。この写真では右下のプレート(Unit2)内部のフィラメントの左右にやや紫がかった部分が見える。(TV7/Uは片側づつ試験するのである)。撮影の拙さで左上(Unit-1)も緑っぽく映っているが,紫色は右下のみ。これがグローだ。原因はガスが貯まっているため。
Perryman PR280
最後はPerrymanのPR280。ベースには焼き印,ブランド名と管名。管面にはPerrymanの紙片。管内には白い粉(陰極コーテイング物質)が落ちている。
Top View of Perryman PR280 with mica/Perryman PR280の上から見た図。ガラス・ピローに代わって菱形のマイカ板が使われている。[YeH]
この球はテストの結果,em=45>40,em=43>40と限りなくエミ減に近い球で,グローもうっすらと出ることが分かった。ただし,うまく写せないので写真はありません。この程度のエミ減,グロー球は,灯炙りで蘇生できる可能性もあります。うまくいったら,次回,ご紹介しましょう。
Ken-Rad UX-280
Ken-Rad UX-280, F, 貼り紙にSold 8/24/32, 1932年頃の球と分かる。赤い貼り紙にはHoleoak Radio Shop, RCA Victor Radio Records Phone 371 Algona lowa, We Recommend RCA RADIOTRONS, ...とある。電極は曲がっている。ゲッタはUFO形の皿。この球は左側ユニットのフィラメントが断線。
ここからは,写真の提供をいただきました。
EverLady Raytheon ER-280
Champion UX-280
281は米国RCA/WestingHouseが1927年に発表した高真空の半波整流管で,同じ頃発表されたUX-250用の整流管。構造はUX-250のグリッドを省いたようなもの。国内では東京電気マツダがUX-250と同時に1930年に国産化。「大きな出力を要する場合に適当したものである,これを2個併用すれば全波整流管として使用され最大出力(直流)170mAが得られる」としている。なお,この球は戦前,マツダはついにST管化されることは無かった?。エレバムとドンはST管KX-81を販売しています。
1931年10月のサイモトロンの定価7.50円,1933年9.50円,1932年3月,サイモトロンは卸2.00円,エレバム記載なしでした。1935年7月卸,マツダKX-281が6.18円,エレバムKX-81が5.00円。1937年9月卸,ドンKX-81が4.50円。1934年1月,マツダKX-281が7.81円,エレバムKX-81が6.00円。ドンKX-81が5.00円。
Data |
Base |
Out-line |
Ef/If |
Eac max |
Idc min |
KX-281 RG-10093 in 1935.12.10 |
1:NC, 2:f, 3:f, 4:p |
S-60 D=60 mm, L=152 mm |
7.5V/1.25A |
700 V |
85 mA |
Cunningham CX381
プレートは250に同じ,ゲッタも板にメッシュ。電極支持はピンチ・ステム部のチューブラー部に金属ベルトを巻き付け,そこに金属支柱を2本立てる形式で大型の長身管には良く使われた形式。この球はエミ減。フィラメントの白い被覆(陰極物質)が少しはげ落ちている。京都府の辻野 泰忠さん寄贈。
フィラメントは細いベルトで形状はM形。ガラス・ピローからフィラメントを吊る釣竿が伸びている。