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Power Pentodes -European(2)MT |
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Matsushita/ 松下 |
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Toshiba/ 東芝 |
Telefunken/ テレフンケン |
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Matsushita/ 松下 |
Toshiba/東芝 |
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Matsushita/ 松下 |
Toshiba/東芝 |
Hitachi- Futaba/ 日立,双葉 |
see Radio |
EL84/6BQ5はかつてのHi-Fi黄金時代を築いた最高峰のMT管です。オランダPhilipsにより1953年に開発されたようです*。米国RETMA(EIA)に登録し6BQ5と命名されたのが1955年頃のことでした。1956年にMullardは米国誌に広告を出し,また米国のメーカではSylvaniaがいち早く1957年頃に広告を出しました。
EL84は開発メーカが5極管と呼んだので,米国名の6BQ5は日本では一般に5極管として流通しました。現物を見ればだれが数えても5極管です。NEC(新日電)の一木氏は6BQ5の構造は目合せをしていない5極管と述べています。しかし,米国ではSylvaniaは1957.10にはPower Pentode,直ぐ後の1958.9にはBeam Power Audio Pentodeと呼び,GEはBeam Power Amplifier(ETRM-15P,1973年頃),RCAもBeam Power Tube(RC-19,1957年)と呼びました。RCAは後に複合名の球6BQ5/EL84(RC-30,1975年頃)の時代にはPower Pentodeとしていますで,その後修正したのでしょう。
国内ではPhilips系の松下が1955年頃に国産化,東芝は類似の6R-P15を開発して対抗しました。NECは1957年に,日立は翌1958年に製造を開始しました。結局,東芝も類似品路線は諦めて1960年に6BQ5の製造を開始しました。その中身は6R-P15ではなかったか?とも思われます。同年,TENも製造開始しています。TV音声用の8BQ5は日立が1960年に国産化,東芝は1961年に輸出用として製造開始しています。
*PhilipsのデータシートではEL84は1953.11.11(13-2-'53)まで遡ることができます,FrankのWebサイトによる。初稿では「EL84は,欧州Philipsが開発したといわれていますが,私はまだ直接その資料を見たことはありません。開発年代も定かでありません。状況を調べると1953年頃にイギリスのMullard/Philips(EL84)あるいはMazda(6P14)の名前が浮上してきます。そのメーカが」と記載。
Advatise of Mullard EL84 from Proc. IRE, May, 1956. Mullardの米国Proc. IRE誌1956年5月のEL84の広告。MullardはPhilipsと同じモデルを出していたと思われる。(開発はMullard/Philips,製造はMullardという構図だったのではと思われる)。残念なことに電極構造は光の加減で見えない。翌年にも同じような広告を出したが,やはり球の中身は良く見えなかった。
Mullard EL84 (6BQ5) high slope output pentode, Electronics, April 1961./これは,MullardのElectronics誌1961年4月の広告の中のポンチ絵。写真が見にくいから絵になった?今度は中身が良く分かる。松下のモデルと良く似ている。Mullardの特徴は,プレート中央の開口部の形状が丸,松下は角型である。またMullardは,1961年になってもg1フィンが付いているのは興味深い。国産球では安売り競争の激化でフィンは無くなってしまった。
Matsushita 6BQ5(EL84) Part-1., July 1957/松下ナショナルの6BQ5(EL84)その1。左は正面,右は側面を撮影。ともに1957年7月製で発売後数年の球,ベース底面に黒文字で押印(OG)。ガラス管壁にはナショナルのロゴと管名,それにHi-Fi用という文字とランク(W)がある。プレートはアルミ・クラッド鉄で,楕円を近似した8角型断面。ゲッタは角型1個(ゲッタ充填棒は2個付いている)。ヒータはヘアピン。今は中古球だが,当時のプッシュプル・アンプに用いていたもの。左はgm=80,右はgm=83。
Top View of 6BQ5(EL84)その1の上部。マイカ板はともにマグネシア塗布。上部マイカ板は下部に比べて厚い。実は2枚重ねている。中央カソード・スリーブの断面はやや楕円形。g1支柱は銅,その上に角型の放熱フィンがある。g2支柱は下部マイカ板に突き出た方を見ると黒色でカーボン被覆(着炭)であることが分かる,g3支柱はやや太い銀色。
プレートは4つの爪を折り曲げてマイカ板に留めている。マイカ板上では折ったプレート爪の間に別の小さな切り込み穴が見える。これはg3と同電位のショート・リングの爪の貫通孔。ただし,ショートリングの爪は1枚目と2枚目のマイカ板の間で折っているから,マイカ板上に爪は見えない。
Matsushita 6BQ5(EL84) Part-2., March 1958/松下ナショナルの6BQ5(EL84)その2。左は正面,右は側面を撮影。ともに1958年3月製,ベース底面に黒文字で押印(A1/NC),ランク(S)。ガラス管壁のHi-Fi用の文字が大きくなった。これも当時のプッシュプル・アンプに用いていたもの。左はgm=81,右はgm=88。大きな違いはグリッド・フィンが無くなったこと。
[Yd8] Getter Ring of 6BQ5(EL84)その2のゲッタ。1957から1958年頃のモデルでは,角型ゲッタが1個で,ゲッタ材充填棒は2本付いている。これがg3支柱に付いている。他方のg3支柱は長いまま突き出ている。
Top Mica of 6BQ5(EL84)その2の上部。その1のモデルと比較してマイカ板は変わりがないが,このモデルでは裏面に貼り付けられているショート・リング(g3と同電位)の爪は2枚のマイカを貫通させ折るようになった。だから,プレートの4つの爪とショートリングの2つの爪の合計6個が見えるようになった。
Bottom View of 6BQ5(EL84)その2の下部。ヒータはヘアピン型。下部マイカ板は1枚,g3ショート・リングは上部と同様に付いている。ベース規格ではpin-1はIC(内部接続,製造会社の自由),pin-2がg1だが,松下製はpin-1にもg1の別の支柱から引き出され,放熱の点で有利。後の7189などと互換性がある。
Matsushita 6BQ5(EL84) Part-3., April and November1958/松下ナショナルの6BQ5(EL84)その3。左は1958年4月製,(KO/ND?),ランク(W),Hi-Fi用ではない,gm=100。ここに写真は無いが別のサンプル(A2/NK,1958年11月製,ランク(W),gm=94)も同じ。右は1963年2月製(3B,底部朱印),管壁の字は完全に消えて詳細不明,gm=91。同時代の別の字消えサンプルもあるが,gm=95。
Bottom View of 6BQ5(EL84)その3の下部。1958年3月製と4月製の大きな違いは,ヒータがヘアピン型からコイル型に変わったこと。ヒータが少し太めに見える。
Getter Ring of 6BQ5(EL84)その3のゲッタ。1958年4月製(左)は角ゲッタだが,1963年2月製(右)は,ドーナツ・ゲッタ1個に変わった。他方のg3支柱は長いまま。ドーナツ・ゲッタは1960年頃に切り替えられた。
松下ナショナルの6BQ5(EL84)その後。サンプルは無いがその後の変遷は,文献で追うことができる。黒川達夫氏の「デイジタル時代の真空管アンプ」(誠文堂新光社,1989)のイントロ部分(p.17)に白黒写真がある。これはモデル(7K)で,1967年11月製。三松葉ロゴの6BQ5/EL84である。さらに,大塚久氏の「オーデイオ用真空管」(誠文堂新光社,1996)のp.33にナショナル・ロゴの6BQ5(9K),ランク(E),1969年11月製がある。いずれのサンプルも外観上全く同じであり,1962年頃から1960年代末までは同じ造りであったことが分かる。
Hitachi 6BQ5 in 1960s/日立の6BQ5。ともに中古。ロット番号はベース・ステム上面に緑で筆書きされており,左は(1ツ),右は(1チ)。ガラス管壁には本来白文字があるが,左の球はほとんど消えて,管名6BQ5と長方形の文字枠はg1フィン辺りに残っている。右の球は完全に消えている。しかし,ガラス管下部にあるもう1つの銀色の管名と長方形の文字枠,それにJAPANは残っている。ともにgm=83。
ゲッタは1961年以降のリング型が1個。1960年代になってもまだg1フィンが残っている。g1,g2支柱は銅製で,g2は着炭であるのは松下製と同じ。異なるのは,プレートの覗き穴で,上下左右対称にできている。またg3のショート・リングは無いが,代わりに細い金属ベルトがマイカ内側に1周している。マイカ板は上1枚,下2枚。シームドカソード。ヒータはヘアピン。これらのサンプルではマイカ板は表面剥離が起きている。
Sharp Brand 8BQ5 made by Toshiba, July 1964/シャープ・ブランドの東芝8BQ5。(Sharp) HAYAKAWA TEC CO. LTD. JAPAN 4-7。1964年7月。中古。東芝のプレートの形状はPhilips系と大きく異なる。正面は平型で,側面は楕円。プレートの開口部は上下のマイカ付近が大きく,中央には小さな平型のものがある。この形式は1957年に発表した6R-P15の初期モデルと同じ。マイカ板は上部が2枚,下部1枚。東芝系は始めからg1フィンはない。g1支柱は銅。g2支柱は黒化。g3ショートリングが見えないが,g3支柱に立ち上がる配線があるので,マイカ板の中に埋め込まれているかもしれない。gm=86。少しガスがある。
Toshiba 6BQ5 Part-2, From End of 1960s to 1970s: 東芝6BQ5(その2)。1960年代後半から1970年代にかけての球(Hi-Fiしか文字がない)。プレートの正面と側面の開口部が無くなる。
Toshiba Box of Pair tubes/6BQ5 Hi-Fiペアー,\1,240。(4CF204R2)。中身は\620。(4CF200 R5 と09)。2つの箱の間にデータシートも入っている。
Telefunken EL84(B 52096 06) in 1960s/1960年代。左側面,右正面。Philips系と非常に造りの違う球。まずプレートは2枚板を繋げば継ぎ目に放熱フィンが作れるが,この球は1枚板を折り曲げ側面1箇所で畳み込んだもので,フィンが無い。また,リブもなく平たいプレートである。プレート断面は楕円で側面の折り返し部に5mm程度の平坦部がある。また側面の上下マイカ板付近に平型の開口部ある。側面中央には開口は無いがコの字の切り込みがある。
マイカ板は10個の爪がある。g1支柱は銅,他は銀色。g1フィンはU字型だが,マイカ板に足が4本降りている。ゲッタはドーナツ型。g3ショート・リングはないが,10回程の巻き線で代用。ガラス管壁の白字は落ちやすいので有名。ロットは他に(B 32096 05)がある。
プレート断面の形状はそれ程重要ではないが,それでもPhilips系とどこか特性が異なるはず。また,プレート放熱フィンが無い分,最大定格動作ではやや不利。
[YdG][YdG] Top and Bottom Views/上部マイカと下部マイカ周辺。プレートは上部マイカに2本の爪が刺さっているだけで折り曲げしていないが,g1フィンの4つ足で押さえ込んでいる。下部は1つだけ折り曲げてある。ヒータはヘアピン。pin-1とpin-2がグリッドに接続されているのは他の会社と同じ。TelefunkenのPL36の例ではマイカ板の穴開け加工に緩みがあり振動が大きかったが,EL84は他社同様にしっかりしているようだ。近年,Tekefunkenを珍重する傾向があるが,どういう訳だろう?音が良い,ノイズが多い少ないという話を耳にしたこともあるが,ヘアピン・ヒータを見る限り特別なハム対策をしているようには見えない。残るは酸化物陰極の中身?これは観察しても分からない。
[YdG] Box/箱。セロファンは縮んでひきつっている。蓋が長いべろを持っているのが特徴。球には白字で縦に長くロット(B 52096 06)が書かれているが,箱の蓋にも同様に(52096 06)と書かれている。
1990年代になると急激にロシアの球が日本に入りました。6BQ5相当の球がたったの@200円で買えるようになりました。(もっとも米国では有名メーカの8BQ5などは未だに@300円位で買えますが)。
Rusian 6P14P/ロシアの6P14P。管壁上部にロゴ,管名6P14P,左(0587 14),右(0583 7)。ガラスがやや太い21.6ファイ(Sylvania 20.7,東芝19.9ファイ)。プレートは6L6系のような提灯型断面で正面はマイカ接触部付近に開口があり絶縁対策は良さそう。側面は角型の開口穴が3つ。g1フィンはU字型。g1支柱は銅色,他は銀色。マイカは8角型。ゲッタは東欧特有の皿型。マイカ板裏にショート・リングは無く,代わりにg3グリッド線が5回程巻いてある(7189,7189Aと同じ構造)。ベース・ピンは東欧や中国特有の鋭く尖ったもの。
サンプルはバラバラに購入した新品10本のうちの2本。左gm=100,右gm=80。gmの分散が酷く,Ibも安定しない。選別した残りカスかもしれない。やはり,ちゃんと大金を支払うべきか?エージング不足とも思えるが,中にはプレート開口部付近のガラス壁が黒化しているものもある。エージング失敗球か?造りは悪くないから,うまく選べばひょっとしたら7189Aクラスの動作もできるかもしれない。
7189はEL84/6BQ5の改良球として1959年頃米国で生まれました。EIA名登録はおそらく米国Amperexと思われます。民生用のアルファベット混じりの名称でなく数字管ですが,高信頼管ではなく一般の産業用として登録されています。EL84/6BQ5と比べると同じ設計中心最大定格で,Ebmaxだけ400Vに引き上げられました。シングル出力時は全く同じ性能ですが,プッシュプル時には出力が17Wから24Wに増加します。米国AMPEREXは1960年4月にはSCOTTの40Wアンプ,また8月にはPACOの40Wアンプとともに広告を載せています。片チャンネル20W,Amperexでは7189はプッシュプルで20Wと紹介しています。一木氏のマニュアルのシングルで6.7Wという数字は誤植です。
欧州名は存在せず,作られなかったようです。1960年には松下により国産化されました。(カラーブレテンNo.80の写真は1960年10月製)。東芝は1962年に,NECは1963年に製造を開始しました。
Matsushita -National 7189 in May 1970/松下ナショナルの7189。左は正面,右は側面を撮影。ともに1970年5月製。ガラス管壁に国際三松葉ロゴと(U 0E),ランク(E)。外見上は1960年代の6BQ5と全く差異がない。ゲッタはドーナツ型1個だが,この時代,取り付けに傾斜が付いている。マイカは上下とも1枚である。g1フィンは発表当時から無かった。このサンプルで変わっている点はカソード・スリーブ。昔は扁平楕円のスリーブは押し出し成形?だったが,この頃には1枚の板を丸めて折り返すシームド型になっている。いずれも中古で,4本ともgm=102-103。
Comparison of Top Mica, Left 6BQ5, Right 7189/松下製の上部マイカの比較。左松下6BQ5(1960年の始め),右7189(1970年)。6BQ5はマイカ板の裏にシールド・リングがあると述べたが,写真では手前の中央部に光っているのがリングの爪。また右のg3支柱の根本に光る部分が見える。ここでリングがg3と溶接されている。右の7189では同じマイカ板を使用しているので,穴だけはあるがショート・リングは元々付いて無い。代わりに,7189ではg3の巻き線が3周程巻いてある。g2またはプレートのマイカ上の漏洩電流を考えれば,リングをマイカにぴったりと接触していない分,耐圧は有利である。
7189Aは7189の改良球として1961年頃米国で生まれました。EIA名登録はおそらく米国GEと思われます。まずGEはpp出力時のスクリーン損失が出力最大時よりも前にピークを迎える図を公表しています。一般の産業用7189の改造として登録されています。7189と比べると設計最大方式の規格に変わりましたが,変更点はEsgを300Vから360V(設計中心換算)に引き上げただけです。プッシュプル出力は7189の24Wが26Wに増加しただけですが,目的は当時流行のウルトラリニア動作,Eb375Vを可能にすることにあったようです。出力は16.5Wでした。
1961年末には日立が国産化し,次いで東芝が1963年に製造しています。欧州名は存在せず,作られなかったようです。しかし,欧州では別のルーツを持つ同族管E84Lが7189Aよりも早い時期に誕生しており,またEL84の高信頼管7320も欧州で生まれ米国にEIA名登録されています。
Toshiba 7189A/東芝の7189A。1960年代後半から1970年代。最近,秋葉原で1本だけ購入。造りは東芝の6BQ5と同じ。違う点はマイカ板が上下とも薄いこと。g3のショート・リングがない。また,g2支柱は着炭していない。
NEC 7189A, (8Z S 560),made by Sylvania?, December 1978/1978年12月。新品のペア球。驚くなかれ,これはおそらく米国シルヴァニア製。NEC特有のエッチング文字がない。ガラス管の頭は筋があり,ガラス表面もでこぼこがある。プレートの形状はPhilips系と同じだが,プレート側面の横長穴は,Mullardや松下と異なり真っ直ぐに並んでいる。gm=99と101。
Box/NECの箱。箱は日本製。7189Aの表示の横に(T)のゴム印。1979年頃秋葉原で購入したもの。
欧州の業務管E84Lは,今日では米国の7189A同等の球として有名ですが,EL84の高信頼管として,米国EIA名の7320があります。1961年頃の資料によると,7320は非米国企業によってEIA名登録され,E84Lはドイツで生産されたのに対して7320はフランスで生産造されたとあります。開発者はどうやら,フランスの業務用真空管メーカC.I.F.T.E.のようです。
Advatise of CIFTE 7320, Electronics in January 1964/Electronics誌1964.1の広告より。
上の広告によると,7320は6BQ5の高信頼管とあり,Eb300VでPo17Wという普通の動作例が紹介されています。写真から分かるように,構造は6AQ5に対する6005の関係のように,プレートが短くできています。同社の別の広告から,7320は航空機や自動車などのモービル用として耐振設計が加わっているようです。どうやら,高耐圧を謳った7189AやE84Lとは一線を画していることが分かります。後にPhilips傘下のドイツ企業Valvoによっても製造されましたが,写真によるとE84Lのようにプレートの長いものでした。AEG TelefunkenのマニュアルによるとE84Lは7320と互換性があるよう(当然)ですが,逆も成り立つかどうかは不明です。
EL86シリーズは1955年*にオランダPhilipsが開発した音声出力電力増幅管及びTV用の垂直偏向出力管。
*Philipsのデータシートに掲載されている特性図の中では100mA管のUL84(のちに米国EIAに登録され45B5)が最も早く(1-4-'55)であり,次いで6.3V管のEL86の特性図が(28-11-'55)である。したがって,EL86シリーズは,トランスレスラジオの音声出力管にUL84(45B5)が1955年に開発され,ややおくれて同じ年に6.3V管のEL86(6CW5)が作られたことになる。のちにTV用の垂直偏向出力管に転用された模様。
Philips Technical Review 誌1957年8月にPhilipsのJ.R.De Miranda氏が,SEPP出力のアンプの論文を掲載し,そこで,EL86が開発され数年前からラジオに使われていることを述べている。また,同じ年に欧州の視点からのHi-Fiの考え方という論文を米国IRE誌に発表して,そこにSEPPとともに6CW5が登場している。日本で武末氏によって紹介され有名なK.RodenhuisらのSEPP回路はその前年の1956年にやはりPhilips Technical Review 誌に掲載されているそうだ(私は見ていない)。
1956年といえばEL86の姉妹管HL94/30A5が国産化された年でもある。つまり,ラジオ用の低電圧型大電流型5極管としてMT7pinを用いて新たに開発したものがHL94,SEPP用に電極最大損失を大きくするためにMT9ピンに入れたものがEL86だった訳である。これらは,同時期にさっそく米国EIAに登録して30A5,6CW5となった訳だ。これからすると開発年代は1955年頃と推定される。1957年末に発行された58年版松下のマニュアルには6CW5の名前はまだないが,付録のPhilips規格表にはEL86の名前が登場している。しかし,この時点では,PhilipsすらPL84(15CW5)の名称はまだ無かった。したがって,垂直偏向管への応用はおそらく1958年頃のことと思われる。
日本では30A5の登場は早かったが,EL86系としてはPL84/15CW5が1958-59年頃に松下により国産化されたのが初めてである。1961年1月に出たNHKの沼田氏の論文では,松下の21A6,30A5,15CW5を用いたSEPPによる垂直偏向出力回路の研究を報告している。さらに1960-61年頃に松下により6CW5/EL86の国産化がなされた。その間,ラジオ技術誌1960.12で土屋氏がMullardのEL86を使用した20Wポジネガ・ステレオ・アンプを発表しているが,1960年の始めにAmperex社の広告を見て手配したそうだ。1961年になると東芝は輸出用に15CW5,1962年にはラジオ用に10CW5,30CW5を作り始めた。日立も1962年にはPL84/15CW5を作り始め,1964年には30CW5を作っている。他社の詳しい記録はないがこの時期には作っているようだ。
EL86系は余りにも大きい出力だったため,国内で本当に活躍したのは,1960年代後半のカラーTV時代であり,19インチまでの垂直偏向出力管としてリバイバル,多用された。今日残っている多くの球はその時代のものである。
6CW5/EL86ファミリーはg1,g2を目合わせした5極ビーム管といわれ(ることがある)。しかし,電気的特性図を見る限り,肩特性は丸みを帯びており立派な5極管だ。ただし,我が国でも松下は1970年代にはいるとEL86系のg3支柱及び巻き線の代わりに(ECL82/6BM8の5極管と同様に)ビーム形成翼を用いるように構造を変更している。
Mullard EL86(6CW5), Electronics in April 1963/ 側面の図。Electronics誌1963年4月の広告から。後で紹介する国産モデルと電極の形状(プレート)が異なる。ゲッタ膜で上部は見えないが,マイカは上部が2枚使用していること,プレートは丸みを帯びていること,プレートは2枚板を片側3箇所のカシメで繋いでいること,プレート側面の3つの穴からg3支柱が見えるから5極構造になっていることなどが分かる。プレート側面のマイカ付近の穴の形状は上下互い違いに開けられており,中央は丸である。これはEL84/6BQ5と同様にMullardの特徴と言える。
Matsushita 15CW5/PL84, from left, Pentode (June 1968), Pentode (June 1969) and Beam (Feburary 1970)/松下製15CW5(PL84)のプレート側面の図。ともに中古。左より1968年6月のナショナルロゴの15CW5(8F,その他字消え),gm=58-。1969年6月の三松葉ロゴの15CW5/PL84(9F U),gm=63。同じく1970年2月の三松葉ロゴの15CW5/PL84(0B ?),gm=72。
左2つ(8Fと9F)は5極管構造,プレートの形状は6BQ5/EL84と同様に8角柱型だがやや細面である。松下製はプレート・フィン部分が非常に短いのが特徴。その他,g1支柱は銅製で各支柱に板状の灰色角型フィン付き,g2,g3は銀色,ゲッタはドーナツ型でg3支柱に取り付けられている。右の0Bは驚くなかれ,6BM8/ECL82の5極部と同じくg3の代わりにビーム・プレート枠が使われている。すなわち,1970年代にはいるとビーム管構造になった。その他g1フィンなし,ゲッタはプレート支柱に変わっている。
各モデルともプレート側面には3つの開口部があるが,特にマイカ板に接する上下の開口部の中を覗くと,5極管の場合にはg3支柱が,ビーム管の場合にはビーム・プレートの一部(金属板)が見える。
Top Views/松下製の15CW5。プレート正面の上部マイカ板。同じ配列。g1フィンの無いモデルはg1支柱が太い。マイカはカソード押さえバネあり。5極管とビーム管の区別。左2本はg3支柱が立っているのが見える。右は無い。代わりに手前にBPビームプレートの金具の爪が見える。
Bottom View/松下製の15CW5。ベース付近。同じ配列。各モデルともg2の支柱間はへの字型の太い金属板で結んでいる。
Box/松下の箱。1968年から1970年。一番左は1968年,ナショナルのロゴは(左面)はローマ字,(右面)はカナ。また箱は上と下の蓋がNATIONALと白字で印刷したセロテープで小さく止めてある。1969年以降の箱はロゴがカナだけになり,右の箱に示すように全体がセロハンで包まれ中央の黄色い紐を引いて開封するようになっている。真ん中の箱は開封した状態。ともに\720。
Toshiba 6CW5 (June 1966) and 30CW5 (Unknown)/東芝の6CW5(6F,1966年6月,gm=43,エミ減)と30CW5(不明,gm=68)。上下のマイカは薄い1枚もの。g1支柱は銅,黒化板状フィン付き,g2は銅に着炭,g3は銀色,ゲッタはg3から。カソード押さえマイカが上部マイカの上にある。上下マイカの爪の数少なく,上は全周でわずか8個,下は4個。6CW5はトランス付きカラーTVの垂直偏向出力。30CW5はステレオ用。
Bottom View/上に同じ。6CW5(左)は松下と同様に2本のg2支柱はへの字型金具で結ばれている(写真では見にくい)。30CW5(右)では金具は省略。片側の支柱からピンに配線しているのみ。
Toshiba 8CW5s (April 1969 and Unknown)/東芝の8CW5。ともに中古。左(9D,1969年4月,管名下に(V)マーク),右(字消えで製造年代不詳)。(V)マークは垂直偏向出力用の意味と思われる。この頃ようやく,カラーTVもトランスレスになり600mA系が使われる。ともに下のマイカは2枚に,爪が沢山つく。g2の金具は先の30CW5同様ない。サンプルはともにエミ減で,左gm=-46,右gm=39。
Toshiba 10CW5 (Unknown) and Sharp-Toshiba 10CW5 (December 1971)/東芝の10CW5(年代不詳,1つ星,管名は金色)とシャープ・ブランド東芝製の10CW5(1-12C,管名は白字,1971年12月)。カラーTVに450mA系も使われだした。シャープはプレート中央の開口部に丸みがあるのが唯一の違い。しかし東芝製。ともに新品で,東芝はgm=85,シャープはgm=76。
Hitachi 8CW5 (Unknown), Futaba 10CW5 (November 1969) and Futaba 15CW5 (November 1969) /日立製の8CW5(J1),双葉製10CW5(9K),同15CW5(9K)。双葉はともに1969年11月。
日立はプレートは扁平楕円断面。フィンの位置を前後にずらして,中央部を凹み付きプレートとしている(6JS6A参照)。下部マイカ板は2枚でg2支柱間を結ぶ金具を内部に挟み込んでいる。g1支柱は銅,他は銀色,g1フィン付き。ゲッタはg3支柱。
双葉10CW5は扁平楕円断面で日立製に近い。プレート平面中央にフィンがあるが,その両脇に2つの凹みを持っている。15CW5は松下製のような構造であるが,プレートフィンはやや長い。ともに同時期の製品で理解に苦しむ。電極材料をあちこちから調達したとでもいうのだろうか?
Boxes, from left, Toshiba, Sharp and Futaba/左より東芝(10CW5,4CF201P1 ね09),シャープ(Doo),双葉電子工業の箱。
Colomor EL86,年代不詳(ロットはMIG L7C1, L6I3, L8J4があった)。製造は明らかに日本製ではなく,欧州のどこかのPhilips系と思われる。モデルは1960年代後半の松下の5極管構造とほぼ同じ。プレート・フィンの幅がやや広い。グリッドフィンは表が灰色,裏が鏡面仕上げなのはTelefunken のEL84などと同じ。その他,g1支柱は銅製で各支柱に板状の角型フィン付き,g2,g3は銀色,ゲッタはドーナツ型でg3支柱に取り付けられている。ベース裏側から見るとg2支柱間は,松下製と同様に,への字型金具で結ばれている
この球は国内通販のB店で10本入手したが大はずれ。ゲッタ・フラッシュの失敗球のようで,中央プレート部や各電極周りのマイカ板は非常に綺麗だが,トップとボトムの空間がゲッタにより汚染されている。gmも大きく異なり,測定中Ibは安定しない。エージングをちゃんとやれば良いかもしれない。写真右の球のプレート正面中央にリブが1つ余計に見える。これはコの字型の切り込み部分。松下と同じ。
Philipsの7ピンの5極出力管。1950年代。詳細不明。
6.3V,0.2A, 250V, 250V, Rk320ohm, 24mA, 4.5mA, rp80k, gm5mA/V, RL10k, Po3W.
Mullardの9ピンの5極出力管。1950年代。詳細不明。
6.3V, 0.2A, 250V, 250V, -13.5, 24mA, 4.1mA, rp100k, gm3.1mA/V, RL11k, Po2.55W.